『ケイデンス・オブ・ハイラル』は王道×邪道!?【感想】

 ゲームをしていて「ああ、なんで今こうしなかった/してしまったんだ!!」と思う瞬間は多々あるだろう。持ち替えとリロードの判断ミス、ローリングのタイミングを間違える、イベントが進む分かれ道を進んでしまう、買った武器が近所の洞窟にあることを知る。etc…

 

そしてローグライクゲームは「なんで今」の最上級だろう。階段を進むごとに繊細で冷静な判断が求められ、1つのプレイングミスが死へと直結する。持てるアイテムと自分のゲーム力が問われる非常にシビアなジャンルである。

今でもRTAが行われブログが更新されているというのはローグライクゲーマーの間では知って当然の話と思う。

 

そんなローグライク界隈にあるゲームが現れた。僕がインディーズゲーム、そしてローグライクに関心を持ったきっかけでもあるこのゲームCrypt of the NecroDancer』(以下ネクロダンサー)。なんで今レベル」はローグライクよりさらに上だ。

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ローグライク」×「リズム」という新機軸で打ち出されたこのゲームはインディーズゲームながらもたちまち話題となり、PCのみならず、iOSandroidPS4、Switchiなど様々なプラットフォームに移植されている。

 

このネクロダンサーというゲームは、従来のローグライクのように綿密な作戦立てや状況読みを行った結果、攻撃を外し文字通り四方八方からボコボコにされるゲームでは無い。

流れる曲のBPMに合わせて1ビート=1ターンでプレイヤーは操作することになる、つまり操作せずとも曲は進み次々と敵は襲いかかってくるため深い読みは通用せず、その場で瞬時に判断する必要があるのだ。

十字移動のみ、ステージごとの新ギミック、多対一が多く要求される場面。持てるアイテムの少なさ、そして3分前後の曲が流れ終わるまでに次の階層へ進まなければならないという、今までとはガラリと変わったゲーム性にプレイヤーの正常な思考は次々と奪われる。

思考が奪われた分の脳ミソには縦ノリ必須のディスコでダンスなテクノサウンドがなだれ込み、気づいた頃には既にこのゲームの虜になっていることに気づくだろう。

 

テンポに重点を置かれたこのゲームはリトライの速さも魅力的だ。いわゆる死にゲーに片足を突っ込んでおり、ドットで構成されたゲーム画面とテンポの速いゲーム展開はなんとなく『Hotline Miami』をイメージさせる。(雰囲気もストーリーも別物だが。)

 

 

ローグライクな画面を音ゲーのようにリズムで次々と動いていくものの、実際はアクションゲーム寄りの内容となっているため、上達が素早く実感できるのも次のプレイを誘発させる強い要因となっているだろう。とにかく僕は狂ったようにプレイしていたし、このゲームがとても好きだ。

 

そんなある日、ある記事が目に入った。

現在その記事の載ったサイトは消えてしまったのだが、内容としてはゼルダの伝説とネクロダンサーのコラボゲームが制作中らしいよ!イカすぜ。」というもの。

そして僕はこう思った。

 

いつも革新を求める任天堂はこういう変なゲームが大好きだ。世界的な超人気シリーズと超難度のインディーズ意欲作が原作となったコラボゲーム。多分、いや絶対面白いだろうなぁ…

タイトル名はケイデンス・オブ・ハイラル:クリプト・オブ・ネクロダンサー feat. ゼルダの伝説』。

 

長ぇよ!!ケイデンス・オブ・ハイラルだけで十分に長い。しかもどこで略しても語感が悪い。そのため僕の中での通称は「ネクロゼルダ……、と思ったら他にもそう呼んでいる人は居るようだ。安心。みんなも呼びづらかったんだね。

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神トラっぽいキャラデザ。

 

ストーリーとしてはハイラルを乗っ取った者に操られた四奏獣を倒すことで魔法の楽器を集め、その力をもってガノンを討つ。」というもの。シリーズ経験者なら予想できる話の展開だろう、いたってシンプルだ。ゲームを新規で始めるたびにハイラルが自動生成されるという周回プレイを促すシステムも相まってゲームボリュームはさほど多くはなく、初回プレイ時は10時間弱ほどあれば十分クリアできるだろう。

 

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クリア時間。放置を踏まえると実際はもう少し短い。

「たおれた回数4…?おい、死にゲーに片足突っ込んでると言ってたじゃないか!!このゲームは簡単なのか?」

その通り、簡単だ。特にネクロダンサー経験者なら。

 

 

本当は怖くないネクロゼルダ

実のところ、僕はリンクの家の前から次のマップで死んでいる。超序盤だ。

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ここ。

なんで死んだのかというと、チュチュ(スライム)のせいだ。

リズムに合わせて十字キーを押し、一撃。僕は難なくヤツを倒した。最初はこんなもんだろ。

このゲームは原作同様、敵はある一定のパターンで行動する。2ターンごとに上下移動したり、攻撃したら自分の後ろに回り込んでくる敵など様々だ。そして今作、チュチュはなんと一歩下がって2体に分身する。

チュチュなんて、分身程度と思うだろう。いや違う。それは1ビートの重みを知らない奴の言うセリフだ。(チュチュが分身するのは当たり前だろ。という指摘は正しい。)

原作プレイ済みならわかるだろう。盾持ちスケルトンの盾をはがすとスケルトンが一人増える感覚。そこに2マス先まで攻撃してくる敵、斜め移動、突進が一気に襲い掛かってくる。

 

あ、最初から容赦ないわこのゲーム。

僕はあえなくチュチュに散った。ここの感覚はプレイしてもらわないと理解しづらいかもしれない。

 

クロダンサーとネクロゼルダには大きな相違点がある。それは「屋内と屋外」という点。

原作において壁を掘るのに1ターン使い、敵との距離を調節するという行動はゲームの進行に必須な基本テクニックである。しかしネクロゼルダは掘れる壁が極端に少ない。壁掘りが不可能となると敵との距離を調節することが非常に困難になる。実際、上の画像に掘れる壁は一つとして無い。(草も攻撃できるがハチが出現するためやりたくない。)

これによって僕は何度も苦戦していた。そこでどうするか。盾を構えるのだ。

 

盾(ネールの愛)

ゲーム中、最序盤に手に入るこの盾は最強の防御手段だ。最初これを手にした時、「うーん使わないだろうな」と考えていたが、むしろ使わなければ次々とやられてしまうだろう。

これによって距離調節、テンポ調節を無視して懐へ飛び込んでいける上、弾を打ち出す敵の攻撃は跳ね返し倒す事ができる。(遠隔武器を手に入れるまではこれでしかノーダメージで倒せない)

 

このゲーム、最初にリンクとゼルダどちらでスタートするか選ぶのだが、よっぽどでない限りはリンクを選んだほうがいい。

ゼルダの盾、ネールの愛は非常に扱いづらい。ネールの愛は魔力を消費して全方位からの攻撃を相手に跳ね返す魔法、非常に便利である。しかし使ってみればわかるだろう、この魔法には大きな欠陥がある。

動けないのだ。

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リンクは動ける。

遠距離攻撃を仕掛ける敵の処理に非常に手間取るネールの愛。僕は未だにやり方がわからない。

 

ゆるいボーナス判定

ビートを外さず、ダメージを受けずにゲームを進める事で敵が有用なアイテムを落とす確率が飛躍的に上昇するのは原作も今作も共通だ。そして今作、このボーナス維持が非常に容易となっている。

掘れない壁に向かっても、アイテム欄を閉じてからしばらく動かなくとも、ボーナスは継続する。

原作では掘れない壁に向かおうものなら、ポーズ解除してすぐに操作を正しく行わないものなら、ボーナスはすぐに消え去る。ずるいじゃないか。元の方にも実装してほしいぐらいだ。

 

ゴリ押し可能なゲーム中盤

コラボゲームとはいえゼルダゲーらしくハートのかけらを集めれば体力は増えるし、爆弾や弓など大量のアイテムはもちろん、たいまつや地形無効化ブーツなど原作でも存在した装備品も登場する。

しかも武器はいつでも持ち替え可能で、シーカーストーンをチェックポイントにハイラル各地にワープすることもできるなど、原作と比べ非常にカジュアルなゲームとなっている。

 

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赤い薬をビンに詰めれば全回復して即時復活できる。

 

中盤以降、こういったアイテムやハートは増えていく。これがあまりに強すぎるため苦戦どころかゴリ押しが可能となる。

これらによって僕はボス戦で苦戦した覚えが無いし、正直過剰と言えるハートの量は緊張感を削いでしまう。(取らない選択も可能だが…普通とるよね)

 

神BGM

僕が最初になんといったか覚えているだろうか。

"テンポによってプレイヤーの思考は奪われ、そこにサウンドがなだれ込んでくる”と。

BGMめちゃくちゃ良い。

ゼルダユーザーお馴染みのあの曲にディスコでダンスなテクノなリミックスが施されており、それが次々と流れまくる。「この曲!曲名わからないけど知ってる!!うおお!!」となることは間違いないだろう。指は弾み、体は動く。正直これだけで価値があるだろう。サントラ出ますよね?

 

総評:ファンなら買って後悔ナシ

どちらのファンにも、新規の方にもこのゲームは買いだ。ゼルダとネクロダンサーの両方の要素がバランスよく盛り込まれているし、小ネタやお約束、ファンサービスにも余念がない。

このゲームで初めてリズムローグライクに触れるなら驚異的な難易度に「なんで今!」と思いながら存分に死ぬことが出来るだろう。

しかし難易度という点で見れば原作には遠く及ばないだろう。装備やアイテムが潤沢になるにつれ(特に広範囲武器を手に入れると)死亡率が著しく下がるネクロゼルダは十分におもしろいとはいえ、従来のネクロダンサーを求めるユーザーは肩透かしを食らうかも知れない。(僕がそう)

 

あくまでゼルダゲーであり、同時にネクロダンサー入門ゲーという印象だ。おかげで原作がいかにマニア向けでハードコアなゲームであり、そして話題性によって広い入り口を持った素晴らしいゲームであるかわからされてしまった。

もしこのゲームを楽しめて、かつもっと悔しい思いをしたいならぜひ原作を買う事をオススメする。ちなみに、ネクロダンサー本編の前日譚に位置する追加コンテンツ“AMPLIFIED”は本編クリア後に導入するのが吉だ。