『tacica』というガラパゴス【推薦】
tacicaが大好きだ。思春期真っ只中だった頃に出会ってから今にかけて、その思いが揺らいだことは一度もない。
彼らの作る曲は僕の琴線に触れ続けているしカッコいい。僕史上最高のバンドと言い切れる。
一時的にマイブームが来たり1曲だけ好きになるというのはあるのだが、ここまで長期的にファンでいるのは僕史上初だ。
彼らはカッコよく曲の評価も高い。しかしいかんせん知名度は低い。なんでだよ。
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tacicaの特筆すべきはその歌詞にある。ちょっと見て欲しい。
手を叩いて響いた音の数だけ幸せになれるなら
石を蹴って転がった距離の分だけ不幸せなのかなtacica/ハイライト
…どういうことだ?最初から何を言ってるのかさっぱりだ。
いや、なんとなくわかる。フィーリングで。
あの時の賛辞と悔しさ。”過去に辿った道で自分は決まら無い”ということだ、ろう。多分。恐らく…
次も見て見よう。
目の前に夢中で通り越した日のもう光に逢えない者
減る蝋に背いて二十世紀に戻るけど僕は車内(ココ)tacica/メトロ
だめだ、さっぱりお手上げだ。こんな風にtacicaはなに言ってるのかわからない歌ばっかり歌う。ワードセンスが独特なのだ。
何言ってるかわからないことをスラスラと言うバンドは最近多い。だからtacicaもその一員とも言える。
なのに時たま驚くほどストレートな歌詞が現れる。
君が望まない事 人が望むけど
笑えないなら間違いだよ戻りたいのに戻れない場所が今 わかったから
tacica/Silent Frog
ハッとさせられる。衝撃を受ける。僕は歌詞の上澄みを味わっていたはずなのに突然冷静になった彼らはこんな鋭い言葉を突き付けてくるんだから。
この歌詞の明瞭度とでもいうのか。この具合が本当に絶妙なのだ。辛そうで辛くない、でもちょっと…みたいな。
しかも面白いのは耳障りの良い単語をただ並べた訳ではなく、歌詞がしっかりと意味を持っていることだろう。歌詞全体を見るとぼんやりだが像が浮かび上がってくるのがわかるはずだ。
その歌詞が意味するところが作詞した本人にしか理解できないのは難点ではあるが。
少年がメリーゴウランドから自由をまき散らして ただの一回転を自分に変えた
線上に浮かんだ未来 彼の自由は待ってなくて だけど一回転を自分と呼んだ
tacica/vase
あ、だめだやっぱわかんねーわ。前言撤回。
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彼らはアニメへのタイアップも行っている。
なんと『NARUTO』、『宇宙兄弟』、『ハイキュー!!』と誰もが一度は名前を聞いたことがあるであろう超人気漫画を原作にしたアニメに楽曲を提供しているのだ。
例えばこの"LEO"は『ハイキュー!!』のEDテーマとして使用され180万回再生もされている。
カッコいいだろう、この曲。
相変わらず歌詞はわかりにくいが、ぼんやり理解できるという絶妙な加減を突いてくる。だろう?
今年4月には新しくアニメにタイアップもするしね。
『波よ聞いてくれ』も僕は好きだから、一緒にチェックしてtacicaを聴いてみようぜ。
人気漫画にはちょくちょく引っかかっているのだ。しかし…何度でも言おう。いかんせん知名度は低い。
そろそろドラマの主題歌にでもなって、ボンッ!!と知名度を上げてもいいんじゃないかなぁと思わずにいられないのだ。
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彼らの楽曲を聴いていただければわかる通り、構成はすごくシンプルだ。ギター、ベース、ドラムの3つ*1。僕の知り合いは「密度が低い」という。実際その通りだと思う。
しかしどういう訳かすごく聴かせる曲が多いと素人目に思うのだ。シンプルなのにどこか耳に残る。
デビューから現在においても曲調に大きな変化は無いように思えるし、彼らの音楽性はずっとブレずにそこにあるのだろう。
それにボーカル、猪狩の声が凄くいいと思わないか?この声の良さに気づいたのはごくごく最近なのだが、クセが無いし本当に聴きやすい。なんというのか、平井堅的なフラットさを僕は感じる。このシンプルに良い声が曲や歌詞が聞き手にスッと馴染む最大の理由なのだろう。
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つまり…ワードセンス、趣向を凝らしつつもシンプルなメロディ(主観)、Vo,猪狩の声。これがtacicaを形作る3大要素というわけだ。
どうだろう…僕は不安だ。だってこの通り『tacica』は個性マシマシなのになんだが言語化しようとするといまいち良さを伝えにくい。そんなバンドなのだから。
「わかる人はわかる」 なんて言葉は大嫌いなのだが、今ここでその言葉を使いたい。使わざるをえない。
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tacica二期
彼らは確かに昨今の流行りとは逆行した音楽をしているし、歌詞だって本人以外読み解ききれないものばかりだろう。
しかし彼の曲には最近変化が訪れている。
鳴き声を笑い声に変えて 遠くの方へ連れ出してサニー
死んだふりでも生きてるってことだもの
答えは無いままにtacica/SUNNY
なんだかノリが良くて歌詞も全体的にわかりやすくなってないか??なんだよこれ、本当にtacicaかよこれ。
2017年のミニアルバム『新しい森』あたりからtacicaは徐々に変わっていった。ラノベみたいな長い曲名、キラキラした曲調、わかりやすい歌詞。語り、打ち込み。
従来まで僕が抱いていたtacica像は音を立ててぶち壊れた後に月までぶっ飛んだ。一体どうしたというんだ。
不完全なままに心臓が一つ
善悪の誕生 光が射している
未完成に惹かれた感情を憂う
ありふれた風景で僕は大丈夫
あ、いるわ。みんな安心して欲しい。ちゃんと今までの変な歌詞、シンプルな構成なtacicaはまだそこにいる。
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従来のtacica像に加えた広がりを見せる彼ら。なぜここまで『tacica』は変わったのだろう。
きっとサポートメンバーの影響が非常に大きいのだろう。外部からの刺激で生命は変化する。進化したのだ。最新アルバムの「panta rhei」という名前*2からもそれをうかがうことが出来る。
ああ、なんだがtacicaって一つの生命体みたいだ。
独自の世界観を持っている。それに時代に迎合するわけでもない、しかし進化も忘れない。オンリーワンでガラパゴスだ。似ているバンドなんていない。
適性ではなく進化。成長ではなく進化。「タチカ」ではなく「タシカ」。
この貴重で独自の生き物に興味は無いかい?今時ここまで自分の色を忘れずに我が道を往くバンドはなかなかお目にかかれないぞ。
わかる人はわかる。そんな言葉は好きではない。
でもいいか。猪狩自身が「なんかいい」を目指している、みたいな事をどこかで言っていたし。僕が正しく言語化出来ていなくてもいいんじゃ無いかと思えてきた。
tacicaはなんかいいのだ。答えは猪狩の口から出てるじゃないか。それで十二分だ。