『仮面ライダーエグゼイド』未視聴者が超えるべき3つの壁

 「ホウジョウエムゥ!!」と主人公の秘密を盛大に暴露をするシーンはコイツのキャラクター性、キャッチーな台詞、カッコいい主題歌も相まってネットミームとして一時話題沸騰となった。ヤメロー

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このシーンだけ知っている人も多いのではないか

突然申し訳ない。確かにこれが物語上ネタバレに当たるシーンであるのは間違いない。 その上あまりに内輪感の強いこのネタを快く思わない人も居るだろう。(僕もあまり好きではない)

しかし勘違いしないでほしい。物語全体で見た時、このシーンはあまりに些細過ぎるネタバレなのだ。この程度でエグゼイドの味は少しだって損なわれないと保証しよう。

 

「ゲーム」と「医療」という一見ちぐはぐなテーマを活かしながら見事に纏め上げたエグゼイド。終盤の次々と回収される伏線、手に汗握る展開、心踊る演出は多くの視聴者を驚かせ、涙させ、熱くさせたのだ。

僕は一人でも多くの人にこのシリーズのすばらしさを味わってほしいのだが、ここへ至るにあたり、視聴者が越えるべき壁が3つ存在する。

 

一の壁:デザイン

エグゼイドという作品を語るのに見た目の話題は避けて通れないだろう。

 

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髪の毛の意匠のあるライダーとか初めて見たよ…

どうだろう、このデザイン。全身は目がチカチカするようなショッキングピンクに髪の毛らしきヘルメット。簡素な胸部アーマーにはスーファミのコントローラーよろしく色とりどりのボタンが配置されている。 なによりその目!なんなんだ!

とりあえず最初にこうは思わないだろう。カッコいいとは。

 

当時、僕を含めほとんどの仮面ライダーファンはこのビジュアルに困惑した。

(これ大丈夫?)、(いやでも2期*1は奇抜なデザインが多いし…)、(奇抜にしてもこれは突き抜けすぎだろ!)といった問答が幾度となく行われた。

 
仮面ライダーは子供、特に男児のロマンである。

過去、どんなに奇抜なデザインのライダーが発表されたとしても、ダサさはありつつもヒロイックな印象を感じ取れたし、複眼、牙のような口元、ツノなどライダーをライダーたらしめるパーツは必ずと言って良いほどあった。

 

しかしエグゼイドはどうだろう。漫画キャラのような目。ツルツルの口元。ツノ……とは呼べなくもないがどちらかと言えば髪の毛。

なんだこれ……、こんなマスコット色の強いライダーにチビッ子達は憧れるのか!? 正直カッコいいよりカワイイ寄りのデザインだ。

 

2の壁:ポッピーピポパポ

今作のヒロインの一人、『仮野明日那』(カリノ アスナ)のキャラクターは強烈だ。

普段は看護師でありながら衛生省との役人という、主人公を仮面ライダーにし、サポートする役割を持ったキャラなのだが、

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かわいい

 

ひとたび音ゲー「ドレミファビート」の筐体に入り込みゲームに登場するキャラクター、『ポッピーピポパポ』(以下ポッピー)に扮した姿となって飛び出すことで雰囲気はガラリと変わり…

「ピプペポパニック〜〜ッ!!」とアニメキャラさながらの声で話し始めるのだ。

そしてテンションも非常に高くなる。慣れるまでは結構キツいだろう。明日那さん返して… 

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明日那とポッピーの演じ分けは凄まじい。

当時、バンダイ公式youtubeチャンネルにて公開されていた玩具紹介動画において、同席したお笑い芸人に「僕は明日那派ですね~」と言われちゃっていた。ポッピー…不憫だ…

 

第三の壁:ストーリー序盤

冒頭でストーリーが良いとは言ったものの、1年間、約50話全編通して面白いという訳ではない。

エグゼイドのストーリーは12話を迎えるまでこれと言って面白くない展開が続く。

 

理想ばかりのゲームバカ研修医、患者と向き合わない甘党天才外科医、変身アイテムをよこせとのたまう白メッシュ闇医者、嘘ばっかりのグラサン監察医。そして突如現れる黒いエグゼイド

どいつもこいつも問題バリバリのヤツらばかりである。そいつらのギスギスする様を12週間に渡って見せられるのだ。

 

12週といえば深夜アニメやドラマなら1クール終わる長さ。キツいとまでは言わないものの、視聴して手放しで面白いと言えるものでは決してない。

ギスギスし、お互いに傷つき、研修医はヘコみにヘコみまくる。ライダーバトルでも始めるつもりか!? いや、始まる。(戦え…戦え…)

 

それに加え

仮面ライダースーパー戦隊は必ず週に1話、今もシリーズとなって我々の元に届く。

1年間酷使される若手俳優スーツアクター、 伸び悩む視聴率、膨れ上がるCG代、スーツ代を差し置いて。

 

 異常なフォームチェンジorライダー数、敵キャラの大幅減少、作中での過剰なパワーインフレ。詳しく無くても一度はこういった話を耳にしたことがあるかもしれない。

主役のスーツアクターを務めていた高岩成二氏はいまや50代。炎天下の中、ろくに前も見えないマスクを被り約20年だ。後続も居ないまま今も休むことなくアクションを続けていた。

ストーリーも撮影も余裕をもって作ればいいし、スーツアクターの育成も、CGも丁寧にやればより良い作品が作れるに決まっている。毎年作品を1年間作りつづける必要なんて無いのだ。

ではなぜ?

 

答えは簡単。全てバンダイのおもちゃを販売するためのコマーシャルとしてニチアサは機能しているからだ。 強いキャラクター、カッコいい場面。それらを異常なペースで作り続けることでちびっ子の物欲を刺激し続ける。

先の2期の区切りはそういった商法が始まった境目でもある。実際2期玩具の物量商法によって功を奏し、バンダイは高い売り上げを叩き出した。

 

あくまで商売の仮面ライダーという作品。

あまりにストーリーに力を割くと、肝心な新ライダー、新フォームを魅力的に描く時間が減り、売り上げは減ってしまう可能性がある。

しかし反対に新商品の描写に力を割くと物語の整合性は失われ人気は振るわないだろう。

 

 世間の反応や販促によって次々と上書きされていく脚本。作品としてあまりにもイレギュラー。こういった過密で特殊なスケジュールで特撮作品は作り続けられているのだ。

 (次の年の放映された仮面ライダービルドは、大量の販促や他のさまざまな問題を抱えたため終盤はやや低い評価となった)

 

さて、毎年放映される特撮作品において販促をこなした上で緻密に張られた伏線、説得力ある後付け設定、あっと言わせる展開。そして序盤で存在していた設定をうやむやにせず物語作ることがどれだけ難しいことか理解できるだろうか??

いままで特撮オタクはこれを重々承知して、少々、いや大々の脚本のブレに目をつぶり続けてきた。

 

その価値観をエグゼイドという作品は正面から向き合い、かつぶち壊してきたのだ。

ウケの良くないデザイン。ポッピーでゲンナリ。1クール分のギスギス。これを乗り越えた者にだけエグゼイドを楽しむ権利が与えられる。

 

聞く限りではしんどそうに聞こえるかもしれない。しかしそれを乗り越えてでも観る価値があると強く思う。

 

緻密に張られた伏線、説得力ある後付け設定、あっと言わせる展開。そして序盤で存在していた設定をうやむやにせずに作られた物語。

それをやってのけた今作は、それまで目をつむり続けていた視聴者の目をこじ開け、そして醒ましてくれた。その労力や工夫たるや想像がつかない。

 

件のネットミームが誕生した理由だってあのシーンに至るまでの経緯が丁寧に描かれており、それを引き立たせる役者の熱演があったこと他ならない。

 

ここまで上質な脚本はライダー内では類を見ない。オタクがめんどくさい、子供っぽい、恥ずかしいとかそういう理由は取っ払ってとにかく僕はエグゼイドをみて欲しいのだ。

 

とりあえずあまり面白くない1話、2話を見てもバチは当たらないはず…多分。

 

*1:俗に、平成ライダーの前半10作(〜ディケイド)を平成1期、それ以降(ダブル〜)は2期と呼ばれている。