『ケイゾク』というカルトドラマ【推薦】

ネットが普及した現代において未解決事件というワードは非常に陳腐なものになった。グリコ森永しかり、黒猫しかり。多くの事件がページにまとめられリンクが拡散されている。

しかし20年も時を遡ればネットの普及率はガックリと肩を落としており、現在におけるSNSYoutubeなんて文化は夢のまた夢。それゆえに未解決事件なんて言葉に胸をときめかせた人だって多かったのではないだろうか。

 

未解決事件というのは現在に至るまで発生している。捜査をしても犯人の痕跡を掴むことが出来ずうんともすんとも言わなくなってしまい、今のように怖い話、都市伝説となって語り継がれるようなものも少なくない。

では、捜査から手放されてしまった未解決事件はどうなってしまうのだろうか?誰か代わりに担当してくれる?遺族の思いはこれ以上汲めない?捜査資料はどこへ行く?

 

迷宮入りとなった事件の捜査資料には“継続”の判子が押され、「警視庁捜査一課二係」。地下にあるこの部署の書架に保存されるのだ。(実際に二係という部署は存在しない)

そんな二係を舞台にしたドラマ、それが1999年にオンエアし今日まで根強いファンが存在する『ケイゾク』である。

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主人公の柴田(右)と真山(左)

 二係は未解決事件が回されてくるいわゆる窓際部署だ。資料に“鋭意継続捜査中“という意の判子さえ押してあるものの一課で捜査した事件をたった数人しかいない小さな部署で解決できるはずがなく、実際これといった活動はしていない。

そんな中に研修として二係にやってくる柴田純がこの作品の主人公。太陽には吠えない。

東大を首席で卒業した彼女は非常に頭がいい。世間知らずで浮世離れした行動や言動が目立つものの、頭脳明晰としか形容する他ない洞察力と推理力で数々の未解決事件を解決に導いて行くのだ。エクセレント。

 

このドラマは非常に不気味だ。1秒につき4カットも挿入される映像が延々と続く特徴的なOP。そしてサイケデリックな演出と不安を煽るカット。例えば1話の笑う刑事と現場写真のシーンを見たとき僕は恐怖した。「とんでもないドラマなんじゃないか」と思わせられたし、同時に一気に引き込まれてしまった。

各エピソード毎の結末はどれも後味の悪いモノだし、全体を通して暗いイメージが立ち込めている。(誰もいない部屋に人が現れるエピソードとか特に後味悪い。) 

 

ファンには失礼な話だが、OP曲『クロニック・ラヴ』が故・岡田有希子の『WONDER TRIP LOVER』をアレンジした楽曲という事実も不気味さを加速させる一因となっているだろう。

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奇妙で無作為に見える写真が延々と流れるOP

 とはいえ、このドラマはただただ不気味な事件を扱う陰鬱な刑事モノではない。ケイゾク最大の魅力は柴田や二係のメンバー間におけるクスリと笑える掛け合いにある。柴田は同じく二係の刑事、真山と行動を共にするのだが、この二人がなかなかの曲者なのだ。

柴田は警察官とは思えない恰好で現場で人型のテープと同じ格好で寝そべる。風呂に入らず頭が臭いと思いきや服を着たままシャワーを浴び、激マズハーブティーをこさえ、運命の旦那様を心待ちにしている。

シニカルで柴田をバカにした態度をとり続ける真山。面倒くさがりというよりはニヒルな印象を受ける男だが一たびスイッチが入れば怒りに身を任せ犯人を糾弾し、蹴りつける。警察官というベールを脱げば無機質な部屋からある男を監視し、支離滅裂な行動が目立つ。

あまりにアニメ的。やっぱりこういうアニメチックな登場人物が人気を博している様を見ると「涼しい顔してみんなもアニメマンガが大好きなんじゃないか」と思ってしまう。そんなアニメチックなキャラクターと不気味な雰囲気とのコントラストによって彼女達は一際輝いて見えるのだ。ブリリアント。

 

正直、刑事ドラマとしての出来は微妙なところではある。トリックにはかなり無理があるし衝動的な動機にしては手が混み過ぎていたり運に頼り過ぎている場合もある。

重い雰囲気、突飛な演出のおかげかキャッチ―さも薄く、実際のところ幅広く人気かと問われれば微妙なスペックである。

 

映画の予告編もとても面白そうには見えない。やっぱり不気味に全振りだよ。

 

しかしどういうわけかやっぱりこのドラマは面白い。 このドラマが放送されてから20年近い年月が経とうとしているが、未だにこれに近い雰囲気のドラマは存在しない。

数年前、TSUTAYAケイゾクを借りに行った時、ポップにはこんな一節が書いてあった。「現在に至るまでカルト的人気を誇るミステリードラマ。」

このポップを見たとき笑ってしまった。間違いない。ケイゾクはどうしようもなくカルトドラマなのである。