『DEATH STRANDING』におけるソーシャルストランドの真髄とは。【感想】

メタルギアや僕らの太陽シリーズの生みの親、小島監督KONAMIから独立してしばらく経つ。

彼が独立してから4年後に発売されたゲーム。それが『DEATH STRANDING』である。

2015年に独立後、一年経たずに2016年のE3にて突如流れ出したDEATH STRANDINGのトレーラーは世界のゲーム好き、MGSファンを歓喜させた。

僕はこのトレーラーからどれ程の時間を経て世に出るのか想像できずにいた。

小島ゲーはこだわりの塊である。大々的なテーマからしょうもない小ネタまでディティールに富んだゲームばかり。それを独立して一から作るわけだからそれはもう時間がかかるだろう。そう思っていた。

 しかし2019年に発売されるなんて誰が想像できただろうか?僕は21年ぐらいまで待つ心構えをしていたというのに。

 

今では多くのトレーラーやプレイ映像が公開されゲームの概要が掴めてはいるが、当初はあまりにブツ切りなシーンばかりで意味不明な、そして奇妙なものばかり。

後日公開されたトレーラーもそれは奇妙なもので見たものの想像を膨らませ続けた。

赤ん坊と黒い影。『P.T.』のリサを思わせるSEと挙動。さまざまなモノが上へ落ち、悲しげなピアノが流れる。その全てがホラーゲームの様相を呈している。

TGS2019に伴って「アメリカ再建」「北米を繋ぐ」というストーリーの大まかな目的や"ソーシャルストランドシステム"と称するアイテム共有システムなど多くの情報が公開された。とはいえやはり不明な部分は残っている。(ゲームなんて大抵そんなもんだけど)

 

そしてきたる11/8。DL版を購入していた僕は有給をとり事前に仮眠をたっぷりとり、デスストランディングを思う存分プレイした。

 

第一印象

まず、このゲームめちゃくちゃめんどくさい。覚悟はしてたけどマジで驚いた。これがメタルギアやP.T.を作ったかの小島秀夫のゲームなのだろうかと思わざるをえない。

 

最初にたどり着いた町から出発してまず飛び込んでくるのは崖と川。見晴らしがいいかといえば岩壁が視界を塞いでいるし、川もチョロリと流れる程度で実質岩とコケばかりでまったくよろしくない。

実際、デスストランディングの地形はかなり不便に設計されているように感じる。石柱が隆起したような場所やクレバス、急勾配な場所が容赦なく目的地の途中に存在しており歩みを阻んでくる。

人もおらず、銃も持たず。ただ荷物を背負ってそんな場所を歩くだけのゲーム進行と膨大なムービー量はコントローラーを投げる人が出るのもうなずけてしまう。

こんなゲームが未だかつて存在しただろうか。

f:id:PSerimochi:20191225161759j:plain

グラフィックは圧巻のDECIMAクオリティ。

その上サムはゲームの主人公としては非常に脆い。走り続けるとスタミナ値が残っていようがお構い無しに立ち止まるし、靴が壊れれば足がボロボロになり爪を剥ぐ羽目になる。敵の大技を2回も喰らえば気絶する上、他のオープンワールドゲームではお約束のジャンプ登坂はほぼ不可能だ。

 

なにより移動の快適さが物を言うOWというゲーム形態で(実際はエリア制だけど)ここまで移動にストレスをかけてくるのは前代未聞だろう。

地形を意識しながら体のバランスを取るのはさまざまな部分で細かいヒントが出ているもののかなり疲れる。

さらに積載ギリギリまで荷物を運んでいる状態では軽快に動くことが出来ないため、荷物を奪おうと主人公を襲うミュールの回避はあまりに困難だ。(タックルの存在を知れば戦闘難度はグッと下がるが。)

 

川を渡るにもLR2を押し込まなければすぐに流されてしまうし、少々の移動をすればすぐさまバランスを崩し転びかけるモーションを何度もも見るはめになる。

f:id:PSerimochi:20191225155818j:plain

ミュール不可避な第一マップ。

こんなに負荷のかかる移動がゲーム全編にわたって行われるのだ。しんどいという騒ぎでは無い。

 

「うおお!これぞヒデオコジマゲームだぜ!」となるプレイヤーならまだしも、ベリーイージーを選ぶようなゲーム初心者にとってはあまりに難解で繊細すぎるのだ。難易度で配送の仕様は変わらないと聞いた時はかなり耳を疑った。これをゲーム初心者にやらせるなんて。

恐れながら僕が点数を付けるなら10点中3あたり。この時点ではそんな印象だった。

 

「そろそろ退屈してた頃なんだろう?」

歯応えがありつつも平坦な配送業務にややグロッキーだった僕の前にヤツは突然現れた。

大型BT(ボス)の登場だ。

f:id:PSerimochi:20191227000039j:plain

シューター操作で敵を倒すのはやはり楽しい。グレネードを投げ攻撃を避ける。原初に立ち返ったというか実家に帰った感覚というか。安心するのだ。

 

しかしチュートリアルが終わったからなんだと言うんだ。つまるところ軟弱な主人公で挑む過酷な配送ゲーなのだろう?

 

レイクノットとソーシャルストランド

しかし2つ目のマップに辿り着くとこのゲームに対する印象はガラリと変わることになる。

 

シェルターに暮らす人らに荷物を届けていく内に銃、パワースケルトン、バイクにトラックと次々と揃う装備装備装備。そうそうこれだよ。これをTGSでみてやりたいと思ったんだ。

銃を撃ち、ミュールを轢き、荷物をぶんどりスムーズに拠点へ帰る。

あれっ、楽しい。

本当に冗長で退屈なチュートリアルはあれで終わりだったのだ。

 

 

そしてチュートリアル終了と同時にこのゲーム最大の要素が顔を出すことになる。

 

シェルターのオンラインボックスに入った他ユーザーの荷物を届けようとトラックに詰め込む。

その配送の途中には僕や誰かの作った橋がかかっており、そこには大量のいいねがついているのが気持ちいい。みんなもここに橋ほしかったよな、俺が建てておいたぜ。

 

国道に素材を入れれば快適なトリップロードが完成する。世界中のデスストユーザーによってこの世界は完成されていくのだ。ミュールの縄張りの手前にはポストが置かれ、岩壁にはロープが垂れているしまだ協力が仰げそうにないシェルターの近くにはセーフハウスが建ってある。

あーそうそう。俺それ欲しかったんだよ、助かるなぁ。

 

これだ。

 

この「ソーシャルストランドシステム」と呼ばれる建造物共有システムがデスストランディングの魅力の半分以上を占めていると言っても過言ではないだろう。

度々ソウルシリーズの血文字システムがあがるように間接的なオンライン要素は今までにもいくつかあったのは事実である。しかしここまで間接的なつながりが強いゲームはデスストランディングの他には無い。

配送の楽しさもストーリーの秀逸さもこのシステム無しでは語れない。このゲームはオンラインに繋いで遊ぶべきだと断言できる。

f:id:PSerimochi:20191225163148j:plain

がらんどうなフィールドにポツンと置いてある大規模なネイビーの施設。それがあるだけでどれだけ嬉しく、安心するだろう。

そこに誰かが確実にいたのだ。

 

カイラル通信量

カイラル通信量を意識したことはあるだろうか。

一言で言えば、シェルターの親密度が上がる毎に増える「建造物のコスト上限」のようなものなのだが、これが上記の内容を必要たらしめる要素となっている。

この世界では橋や発電機をを無尽蔵に置けるわけではなく、建造しまくっているとゆくゆくはなにも建造できなってしまう。

  

実際に上限に達した人は少ないかもしれない。だがそれは他人の建造物に助けられてきたことの裏返しである。

序盤では満足な通信量もない上に有用な建造物も少ない。当然セーフハウスも時雨シェルターも持っていない。しかし世界は過酷。

いずれは(ここにアレがあれば…)と思う瞬間がやってくる。

つまり他ユーザーに頼らざるを得ないのである。

f:id:PSerimochi:20191227003001j:plain

国道も自分一人では到底完成し切らないだろう。

繋がりに煩わしさを感じたり自分の力でクリアしようとするプレイヤーにとってはかなり足を引っ張る要素になってはいる。でも一人の力でクリアするとかそういうゲームじゃねぇからこれ!!諦めろ!!

もう一度言うが他人の建造物が必要になる瞬間がいずれは必ず来るのである。きっと誰かに泣いて感謝する時がやってくるだろう。

 

今までに無いジャンル

 今作のゲームプレイは上記の通りあまりに独特である。

基本的には歩いて歩いて、ようやく目的地にたどり着く配送ゲーム。シューターの要素こそあれどそれは全体の2割程度でしかない。

 

『DEATH STRANDING』はウォーキングシュミレーターと揶揄されたゲームだ。しかしそういったゲームが世の中にどれほど存在するのだろう。

思い出してほしい。初めてステルスゲームをプレイした時の緊張感やホラーゲームをプレイした時の心臓の高鳴りを。

気になったゲームタイトルをプレイした時のワクワクを感じることはあるだろう。しかしジャンルを初めてプレイした時の心情をまた思い出せるような人は少ないのではないだろうか。

 

今まで体験したことがないゲームをプレイした時プレイヤーは何を思うだう。

試行錯誤の末に目的地や正解にたどり着いた時の感情や快感。シューターやアクションから 2歩3歩も離れた「ウォーキングシュミレーター」という未知のジャンルを開拓することがどれほど気持ちいいか。

それは僕が初めて格ゲーで勝利した時や『Crypt of the NecroDancer』をクリアした時のそれと同じだろう。

 

今までの自分の感覚に無いゲームをプレイするのはきっと楽しい。

従来の殴り合いや撃ち合いから大きく逸脱した、野心的とまで言えるほどの小島監督の今作における姿勢がプレイヤーや、昨今の「失敗できないゲーム業界」において高く評価されているのではないだろうか?

 

 

魅力的なキャラクターとストーリー。それに噛み合ったシステムもさることながら、そういったゲーマーや、役者の影響で初めてコントローラーを取った人に語り掛けるような。「あの時」を思い起こさせてくれるような。僕はそんなこのゲームを強く抱きしめたくなる。

 

間違いなくゲーム史をに名を残す一本になる。僕はエンディングを見てそれを確信したのだ。

f:id:PSerimochi:20191227003634j:plain

俺は歩いたよ。