『ボク姫PROJECT』で女装男子を理解したぁい!【感想】

 女装男子男の娘とかTSとか、僕はあの手のジャンルに疎い。(厳密に言えばどれも違うらしい。)
常日頃から「女の子で良いじゃん。」とか「結局のところ全部ホモでは?」と考えてしまうし、なにより女装をしても男として振る舞うキャラがさほど好きでは無いのだ。

 女装をするなら心まで女になっていて欲しいし、そうでないなら無いなりに女装に圧倒的な恥じらいや誇り、納得できる出自を持っていて欲しい。だって人を騙すために女装してるキャラって性格悪すぎるし、なにより生意気じゃないか?

…いや、別に毛嫌いしているわけではない。ただこれまでの人生で触れることがほとんど無かっただけなのだ。食わず嫌いであると。

 

 そんな中今回僕がプレイしたのは日本一ソフトウェアから発売されている『ボク姫PROJECT』というゲーム。

 端的に言うと女装をする男の娘にフィーチャーした作品で、ゲームジャンルはズバリ『女装覚醒アドベンチャーである。目覚めちゃうのだ。

 僕が初めてこのゲームの情報を見たとき、「日本一また意味不明なゲーム作ってるな」と思った。当然じゃないか。男の娘ならともかく女装男子だなんて一体どこに需要があるジャンルなんだよ?…需要があったから制作決定したらしいが。

 とにかく!その手の嗜好が全くない僕にとって、今作は全く興味の無い位置にあるゲームなわけだが、僕はどうしてもこのゲームを買わなければならない理由があった。

 

俺は順当な流行り神を出して欲しいの!!

風見純也と小暮コンビをまた見たいの!!

 僕は同社のホラーADV流行り神シリーズが大好きなのだ。
僕がADVを好きになるきっかけとなったゲームの一つであるし、なにより都市伝説を題材にした作風は僕の趣味形成を一手に担ってくれたため非常に思い入れがある。水明先生推しです。

3部作で完結してるとはいえ続編の希望を持ってしまうのはやはりファンとして当然の心理だ。

 

 そしてなにより「日本一が最近ヤバい」。そういう話を聞く機会が最近増えてしまった気がするからだ。詳細はともかく、僕もちょっとそう思っている節があるし、マジでヤバいなら買い支えなければならない。もし日本一が居なくなってしまっては流行り神4」は夢のまた夢になってしまう。非常に不本意だ。今思えば不純で不誠実すぎる動機だなと思うさ。

 

 それに「全年齢向け女装ゲームを作りたい!」という明後日の方向に向いた熱意は嫌いじゃなかった。彼らはなんと老若男女が安心してプレイできる女装ゲームを目指していたのだ。

 レーティングの都合でCERO:B(12歳以上推奨)になってしまった時は爆笑したと同時に「どうしてそこまで…」とボロボロになってもなお戦い続ける戦士に向ける眼差しを送ってしまった。応援せざるを得ないじゃないかこんなの。
痛みに耐えてよく頑張った。感動した。

前置きはやめよう。とにかくそんな並々ならぬ思いを持って挑んだこのゲーム、悪く無いのだ。いや、むしろかなりいい。

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 今作の主人公である伊草ミナトくんは普段からよく女性と間違えられるほどの風貌の持ち主だ。彼には姉がおり、姉を非常によく慕っている。

 姉のマリカは容姿端麗で深い慈愛と強さを併せ持つ女性だ。さらには天性のセンスから10歳にして逮捕術を完全にマスターしてしまう弟思いな完璧超人である。しかも夢は総理大臣。もはや化物だ。

自らを深く愛してくれる姉に応えられるように、近づけるようにと彼女と同じ逮捕術を学び、彼女と同じ高校を目指すなど、常にミナトくんは姉を主眼においた人生を過ごしてきた。

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伊草ミナトくん。かわいい顔だが肝は据わっている。

 じゃあミナトは姉に近づく一環として女装をするド変態シスコン野郎なのか?と言われればそうではない。

彼は女顔である自分の容姿にコンプレックスや苦い思い出を持っているし、姉と自分を比べブルーになってしまう瞬間だってある。だからこそ女々しい自分から脱却するために逮捕術を習ったし、男として姉を支える存在でありたいと常に願っているまっすぐな人間なのだ。

 

 それに舞台である百合愛(ユリア)学園も随一のお嬢様学校ではあるが男子部は存在しているし、彼は無事に男子部での合格を果たしている。 

 ではなぜ女装をする羽目になってしまうのか。それはかつて学園に通っていた姉を救うためである。姉を救うことと女装をすることに一体なんの関係があるのかは疑問であるだろう。しかしここは物語のキモ。ぜひプレイして確かめて欲しい。

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伊草エリカくん。アリやね。

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 さて、かくかくしかじかでミナトはついに女学生用の制服に肩を通しウィッグを被ることで姉とそっくりである仮の姿「伊草エリカ」として学園生活を送ることとなる。

エリカくんにとってココは危険で溢れる場所でしかない。女装をしているとバレてしまっては退学どころの騒ぎではなくなってしまうし、学園で『四姫(後述)』として存在していた姉のイメージすら傷つけてしまう。

 そのうえ本来は男として入学しているため常に男と女でいることのバランスを取り続けなければならない。眺めているだけの僕ですらマジでヒヤヒヤが止まらないのだ。(バランスに関するツッコミどころは無くは無い。)

 

 さらにこの百合愛学園には一つ、絶対のルールがある。それは『カワイイは正義』だということ。かわいければすべてが許されるのだ。
そのカワイイ至上主義からか、男子部の設立は当時非常に渋られていた。その考えの強さは今年の男子部への入学者が2名のみという形で表れているし、男子学生は女子学生との接触が非常に厳しく取り締まられている。

 

 そしてこの学園には学内の投票によって選ばれたトップオブトップの美少女として君臨する4人の生徒たちが学園の実権を握っている。

 通称『四姫(シキ)』。彼女達はカワイイ至上主義の到達点であるわけだが……四姫はめちゃくちゃヤバい。
それぞれの生徒に大量のファンが存在しているし、睡眠薬を盛ってもまるでお咎め無しな上、先生に対する発言力や学食のメニューをひと声ですべて変更できるなどマジで強い権力を持っている。

 さらには四姫のみにしか共有されない極秘の情報があるなど、年功序列であることも影響し学園においてかなり閉鎖的で独裁的な組織として存在しているのだ。

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四姫の面々。

 そして一番ヤバいのが彼女らはなぜか超能力を持っているという点だ。
一人は目を合わせただけで人を失神させることができるし、一人は近くに居るだけで泣きたくなるし、一人は命令すれば誰もを要求に従わせることができてしまう。プリーチャーかな?

 しかし四姫の存在理念はあくま生徒たちの目標であり模範であり、生徒たちを導びくためという健全な存在なのだ。全員が四姫であることに誇りや責任をしっかりと持っているし、実際学園の運営は滞りなく行われている様子。
それに、肝心の本人たちがそれほど権力を振りかざさないのがマジで救いである。世界は優しい。

 

 かつては四姫のメンバーであったミナトの姉、マリカ。姉を救うためには彼女に近い存在であった四姫に近づく必要があるだろう。極秘の情報にもヒントが隠されているかもしれない。

しかし男子部では制約があるためどうしても近づくことは困難。そのため女装は姉を救うためには避けて通れない手段なのだ。

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能力は本人のカリスマ性によるものだそう。

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 今作は分岐はあるものの選択肢がほとんど無いため、特殊なモードはあるものの基本的には文字送りを行うだけの簡単なADVである。しかしタダでは終わらない。なにせ今作は『女装覚醒アドベンチャー』である。目覚めちゃうのだ。

なぜミナトが女装をするのかと言えば姉を救うため。姉を救う一番の近道は姫になること。そして姫になるには姫候補として選挙で過半数の生徒から支持されなければならない。

 そう、姫になるためには他の姫候補と選挙という形で人気を競う必要があるのだ。戦う相手はもちろん息をのむほどの美少女であるわけで。そんな相手に勝つには付け焼刃の女装では勝つことは叶わないだろう。

 

  つまり支持を得るためには女装力をあげること。選挙にとどまらず男とバレないためにもミナトをより乙女らしく育成することが必要なのだ。なにが言いたいかってボク姫は生粋の男の娘調教ゲーであるということ。

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調教担当兼メインヒロインの伊草アキラちゃん。

 わけあってミナトくんと同棲しているアキラちゃんはミナトの従妹だ。女装を勧めてきたのも姫になることを提案したのも彼女。そして彼女が発案した調教プロセスこそがタイトルでもある「ボク姫PROJECT」なのだドン!!!

 少し脱線するんだけどこのアキラちゃんがカワイイんですよ…。マジで一番好き…無理…しんどい…尊い…。アキミナきてる…。

 

 成長には3つの要素がある。ビジュアル教養精神。どれも女装に必要なものであることはご存じの通りだろう(!?) 。そのため選挙までにどの要素を伸ばすかという取捨選択は難易度は高くないものも非常に重要だ。

 姉のために女装を始めざるをえなかったミナトはなりゆきとはいえ自分の恰好を恥じているし、ヒールもスカートも全く落ち着かないし、いつ女装がバレるかを恐れている。
スカートの正しい抑え方は?女子トイレの使い方は?3つの要素に合わせて何も知らないミナトくんにそれをぶち込むのだ。なんだか興奮してきたな。

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血がにじむほどの努力が必要なんで…他意は無いんで…

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 確かにミナト…もといエリカはカワイイから姫となる選択肢を選ぶことができた。しかしカワイイだけで姫になれるほど甘い世界ではない。
そもそも最愛の姉を救うためとはいえ毎日女装を行い、時には特訓に励むなんて常人に可能なはずがない。自尊心は崩れさり距離の近い女学生に平静を乱されまくるに決まっている。

 それでもどうにか姫になると決心が付けられたのはミナトくんが果てしなく強い人間だからであり、同時に「登場人物全員善人」であったためだ。

 

 結果としてエリカちゃんは姫となるわけだが、姉を救わない限り戦は終わらない。情報を集めるために常に全力疾走を続けなくてはいけないのだ。そんなひたむきな彼女をクラスメイトは常に尊敬してくれる。かつて選挙で争った仲間もいつの間にか後ろで支えてくれる。

男の姿で会う男子部の人々だってエリカを心配してくれているし、エリカの従妹としてサポートを行っている(と説明している)ミナト自身の事も気にかけてくれる。

 厚いサポート、信頼。ミナトとエリカそれぞれの居場所だってあるし、求められている。それがあるからエリカは姫への道を突き進むことができたし、姉に関する調査も決してやめなかった。なんて暖かいのだろう。僕は各ルートで一度は泣いた。

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オレ…お前らのこと好きだわ…

 しかし辛いのだ。周りが善人であるからこそ辛い。理由は明白だ、目的を隠した上に性別を偽り、エリカとして全校生徒を騙し続けているのだから。

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 『本当の自分』とは一体どれなのだろう。

ミナトとして男子部で笑う彼女が、アキラと女装の特訓をする彼女が、姉に常に憧れている彼女が『本当の井草ミナト』なのだろうか。
どれも違う。その一つ一つ、過去や各場所に存在するすべての彼女を集約した存在こそが『伊草ミナト』なのだ。

 

 いままで過去によって裏付けされた今でミナトちゃんは道を切り開いてきた。しかし未来の自分を形作るのは過去じゃなく今の自分。何度も言う通りミナトちゃんは女装をしなくてはならないのだ、今のままではどうしても限界が訪れるだろう。

もちろん変化だってリスクが無いわけではない。本来の自分とイメージのギャップに悩むことだってある。できることなら男のままで、今のまま籠に留まっていたいものだ。

 

 しかしミナトちゃんは見事に変わろうとしてみせた。確かに彼女に選択の余地は無かった上、女装を続ければ続けるほど秘密も罪の重さも増えていくのは間違いない。

それに結局どこまでいってもエリカはミナトでしかなかった。どんなに偽っても取り繕ってもベースにあるミナトの過去を隠すことなんて不可能。

 

 しかしそれで充分だったのだ。ミナトちゃんは自分は変えられずとも持ち前の人間力で周りを変えることができた。

そしてミナトが壁にぶつかった時は仲間たちの達の手助けで最終的にミナト自身を変えることを可能にしたのだ。

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マジいいゲームなんすよ…

カワイイからモテるのか?人として優れているからモテるのか?また別の理由があるのか?やはり全部だ。

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 みんなも今からでも遅くない。お子様にも安心してプレイさせることができる”ほぼ”全年齢向け女装ゲームで性癖の英才教育を済ませておこう。教育に加えミナチャンカワイイヤッターだけでは終わらないゲームになっているぞ。

 

 僕は女装男子とか男の娘とか、あの手のジャンルにはまだ疎い。(やはり厳密にはどれも違うらしい。)しかし僕はこの素晴らしいゲームを通して「とりあえずは女装男子も悪くないかな。」そう考えられるような広がりを得ることができたのだ。

……なんてことはまるで無い。はずだ。

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 ただ、このゲームが僕にとってかけがえのないモノとなったのは確かだ。

 

 あとマジで流行り神4待ってます…

 

 

……また、ボク姫に興味はあるが一抹の不安を感じるという方はいるかもしれない。そんな時は公式がゲーム冒頭2時間分を垂れ流す動画を公開しているため、そちらをチェックしてから購入を検討してみよう。(本記事で書いている以上のネタバレがあるため注意)

 

あとクリア後には公式Twitterにあるボイドラを探すと幸せになれます。そして声優の方々に最大のリスペクトを送ろう。