『Watch Dogs Legion』は冷酷だった【感想】

 『Watch Dogs』シリーズは街中をスマホ片手にコソコソとハッキングし、パルクールしながら銃を撃つ。たまにカーチェイス。そんなゲームだ。 影に隠れ、遠隔で物を操る時の暗躍感とイタズラ感は大きな魅力の一つで、爆発するパイプの範囲内に敵をおびき出す瞬間は在りし少年の頃の感情が蘇りついニヤニヤしてしまう。

 独自性の高いオンライン要素、オブジェクトによる即興性の高い戦闘、他人の個人情報や生活をボタン一つで盗み見る背徳感は他のゲームでは決して味わえない。大好きなゲームシリーズの一つだ。

 

 そんなゲームの実質ナンバリング最新作がWatch Dogs Legion』(以下レギオン)である。

 レギオン最大の特徴はNPCをプレイアブルキャラに取り込めるという点だ。以前までは個性的な主人公が存在していたのだが、今回は画面に映るロンドン市民一人一人にバックストーリー、ボイス、能力値が自動生成で割り振られているらしい。
 その数は膨大のようで、老若男女、ギークからスポーツマン、物乞いから芸術家までとにかく全ての人物をデッドセックというハッカーグループのメンバーとして迎え入れられ、また操作できるというのだ。

そしてキャラクターが死亡すると二度と戻らないという。(設定で変更可)

 

 正直、なんじゃそりゃという感じだ。たしかに全NPCプレイアブル化は前代未聞の取り組みだし、非常に魅力的なコンセプトだろう。”Legion”、文字通りロンドン市民全員が”反逆者”。正直カッコいい。

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 しかし僕はエイデンの復讐劇やマーカスと仲間のワイワイをキャラクターの掘り下げや成長通しながら見たいのであって、見ず知らずでぽっと出の、死ねば二度と使えないキャラクターに思い入れもクソも無いじゃないか、と思った。

 NPCの能力厳選作業が始まるに決まっている、どうせ1タイプに5パターン程度の個性なんだろう、ストーリーが変わるレベルで個性を自動生成するなんてことを可能にしているならNPCにリソースを割きすぎてゲーム自体のボリュームは少ないんじゃないか、とか色々考え……とにかく僕はレギオンに不信感しか抱いていなかったのだ。

 そしてプレイしてみて思うのはやはり、僕の不信感はある程度当たっていたということだ。

 

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 まず触って感じたことは「また操作変えやがったな」だ。

 ウォッチドッグス1は操作にクセがあり、それがとっつきにくさや評価の低さの一端を担っていると僕は考えている。2では一般的なTPSに寄せた操作となったため「よしよし」と思っていた。しかしレギオンではまた1のような煩雑な操作に戻ってしまっている。しかも1とは微妙に違っているため操作感はどのゲームとも違うものになってしまっているのだ。脳がはちきれそうだぜ!!

 幸いコンフィグをそこそこ自由にいじれるのが救いで、カバーと登るボタンを入れ替えるだけで違和感はかなり緩和される。

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大した変化はないけどコンフィグ設定したので参考にどうぞ

 というかそもそもウォッチドッグスにはしゃがみボタンは存在しなかった。戦闘態勢になれば前作主人公達は自然と屈んだためステルスはスピーディかつ容易だったのだ。
 老人でも余裕で腰を落とすためわざわざしゃがみボタンを実装する必要があったのかかなり疑問であるし、4でまた操作が変わるのを想像すると今から割と気が重い。(オンラインで使うのかな…)

 

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 そして今回の売りであるNPCプレイアブル化もやはりというか微妙である。

 微妙とはいえもちろん良い部分だってある。実際NPCはなかなかに個性的で、職業や年収などおなじみの内容に加え交友関係、検索履歴など見ていてついフフッとなるようなプロフィールがこれまで以上に作りこまれているのには驚いたし大いに楽しませてくれる。

 マップ上に存在するNPCたちも動きや言動はバリエーション豊かだし、勧誘した人達はストーリーミッションだとガシガシ喋ってくれるためNPC探しで飽きるようなことは無い。その上話すすべての内容がしっかりローカライズされているなど日本語にも力をしっかり入れてくれているあたり流石UBIと言うべきだ。本当にありがたい。

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ヌードル検索「アニメ ハードコア 紫髪 エルフ」

 だがしかし、いわゆるメタデータデモグラフィックが物語に絡む瞬間は一度たりともない。フルボイスギャルゲ―で名前入力を要求されるようなものだ。せっかく僕が「かきもち」と入力しても結局は君、アンタ、お前呼ばわりでそりゃそうか、と興ざめする経験とよく似ている。

 ゆえに2のような「映画で使った車奪ってそこらを走ればデットセックの宣伝になるんじゃね!?」的な楽しさは一切ない。なぜなら車を奪うのは映画オタクであるから、という動機付けがそこらの市民では不可能だからだ。

 

 『レギオン』もキャラ同士で名前は呼び合う事は無いし、職業がストーリーに生かされる瞬間は無いためそりゃそうか。である。セリフや人員を充実させる中で遭遇するスカウトミッションの幅も多いとはギリギリ言えず、ゲームを続けるほどに既視感を感じてしまうものばかりだ。300人一斉解雇されたり、車をテムズ川に突っ込んだ回数はもはや覚えていない。

 この手のやり取りはギャルゲー同様全く期待してはいないとはいえ、遊んでいるとやはり残念であるしゲームとの壁を感じてしまう。キャラ立ちも設定の絡め方も最初に操作することになるダルトンに敵う者は現れない。

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お前がナンバーワンだ。

 その他にも体が不自由であったり腸内環境が悪かったり、突然死をしてしまう人など何らかのハンデを持っている人をデッドセックに勧誘する理由が無いのも残念な点である。

 そういった人たちでの中にハンデ以外で個性的かつ強力なスキルを持つ人を見たことが無い。そのため最後まで彼らはただの弱者としてのみ存在するほか無いのだ。どうしてトレーラーにあった「ライフルでのダメージ増加」みたいな能力無くなったんだよ…付加価値くれよ…
 女性のみとか高齢者のみとかこだわってチーム作りをするのも可能ではあるため一概には言えないが、そういった遊び方をわざわざしない限り自然とスパイや殺し屋、建設現場の作業員など強力かつほぼ固定のスキルを持った人々が集まってしまう。

素人考えだが、せっかくならレベル制にして新たにいくつか能力を与えられたり、デメリットを打ち消したりできるようなシステムがあれば人材選びも楽しくなったのになぁと思ってしまうのだ。

 

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 それにシリーズ共通のシステムであるハッキングの要素が大きく狭まっていたのには落胆した。

 最初に言った通り、このゲームの魅力は遠隔で物を操る時の暗躍感とイタズラ感にあると思っている。全シリーズユーザーが走行中のバイクにスチームパイプをぶつけたことがあるように、ああいう市民をオモチャにしたイタズラが楽しいゲームだったはずだ。(最低)
 もちろん残ったハックはどれも便利であるし、戦闘で重宝するものばかりである。しかしハックのほとんどが戦闘に使うもので、停電とかギャングをけしかけるとか、使う場面は限られるもののあれば確実に楽しいハックは消えてしまっている。

 

 おそらくキャラバランスやなんらかの兼ね合いのために削除されたのだろうが、市民で遊べることと言えばドローンで狙撃したり車をぶつける程度であり、ハッキングが全体的に地味で派手さがないのである。個人的なことかもしれないが残念であった。
 そもそも市民の心証が悪くなるとスカウト不可能となるため気軽に彼らをオモチャにできないという面もあるのだが。

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せっかくドローンをハックしても結構頼りない。

 

 ここまで『レギオン』が好きな人からすれば心苦しい内容だったかもしれない。申し訳ない。でも待ってほしい。つらつらと書いたが、正直ここまでは許容範囲内だ。
「まぁ微妙なところはあるけれどあくまで”微妙”で収まるぐらいには楽しいな。好きだな。」といった具合に。

実際クリアし終えた後でも今作は悪いゲームでは決して無いと思っているのだ。嘘じゃない。

 

 しかし一つ。このゲームでどうしても僕は受け付けることができない要素がある。僕が一番がっかり、というよりも「プレイするモチベーションが下がった」原因となったのはストーリーにある

※物語中盤からのネタバレが含まれるので気になる人は次の画像が表示されるまでスクロール推奨。

 

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 話のクオリティに差がありすぎるためにスカイラーセン周り以外語る場所はないこと。予想通りストーリーは短いこと。ボリュームをスカウトミッションに頼りきっているなどある。しかしそれらはさほど重要ではない。

 ストーリーでDCL(デッドセックロンドン)に一切の主体性が無いことがわかってしまったのが最も重要であり、もはやがっかりを通り越して不愉快なのだ。

 

 今作の物語は、"ゼロデイ"という突如現れたハッカーの招いた爆破テロにより、ロンドンと共にDCLは大打撃を負ってしまう。デッドセック再建とテロの阻止。そしてテロを理由に導入された民間警備会社アルビオンによる過激な治安維持からロンドンを解放しようと再始動するというものだ。

 その過程である協力者と共に行動していたところ、DCLは協力者に騙され窮地に立たされてしまうのだが、それによって発生した問題を解決しようとしたときに彼らが発した言葉は「(騙した)彼を狙撃するしかない」だ。

 

 僕はがっかりした。見損なった。なぜならそう発言したのはおしゃれで物腰が柔らかく、自らを僕と呼び、テーザー銃と逮捕スキルを持つ元警察官のおじさまだったからだ。
 確かに騙されたのはムカつくし、殺害する以外選択の余地は無かったのかもしれない。しかしその中で容赦なく狙撃を選択するなんておじさまは警察としての何かをいつの間にか完全に捨ててしまっていたのだ。要は解釈違いである

 しかもこれはおじさまに留まらない。人身売買の元締めを逮捕しようと言った依頼主が結局逮捕でなく殺すことを選択したときも殺害の様子をボケーっと見てから帰った後で「あいつは殺されるべきだった」と同調するメンバーに、警備会社の要人を容赦なく殺した後にパーティーを開く元社員など、メンバー全員の行動や言動がなんだか…腑に落ちない。

 

 直々に暴力を下すのでは無く、暴いた悪事を特徴的なアートワークを用いて公にするのがデッドセックの矜持だと2で散々見てきたというのに、肝心のDCLは人が殺される瞬間を黙って見ることができるし、人の頭をライフルで吹き飛ばす事にだって一切の抵抗感を持っていない。敵はさることながら、味方の倫理観すら崩壊してしまっているということが僕は本当に悲しかったのだ。

 そしてなぜ倫理観が崩壊しているのかといえばやはり操作キャラがNPCだからとしか言いようがない。
”おじさま”はDCLの仲間として振る舞うし自身をPCと思っているがその実、結局はどこまでもNPCであり、与えられた「元警察官」という過去すら関係のない規定のセリフを発する自動生成された存在でしか無いという事実が浮き彫りになっているのだ。

そりゃそうか。それこそ映画の車をかっぱらうなんて思いつくのは彼らでは無理なんだ。

 

 主体性のかけらもなく、他人の言葉に乗せられて暴力の限りを尽くす彼らを見て僕は恐縮してしまう。レジスタンスという大義名分とデッドセックという集団意識に飲み込まれた彼らは、ついには自己すら捨て去った冷酷なテロリスト達となってしまった
そしてそんな集団を祭り上げるロンドンは見ていて本当に不愉快だった。サンフランシスコのデッドセックを見習ってくれよ!!マジで!!

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口が裂けても彼らを守護者とは呼びたくない。

 他にもカーチェイスがほぼナシ、アビリティ替えが面倒、フォトモード周り、観光要素の削除など細々した不満点は多々あるのだが、これ以上は大した問題ではないのでとりあえず置いておく。

 

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 今作を遊んで最終的に思うことは、「市民」という最大の個性を実装することにより元々持っていたハッキングや義賊のようなストーリーというシリーズ「らしさ」が薄くなってしまっているということだ。

 確かに全市民プレイアブル化は魅力的なコンセプトではあることは間違いない。正直カッコいい。しかしそれだって過去作のキャラが登場するというDLCが用意されていることがコンセプトと相反してしまっていることからいよいよ今作が持つ個性すら薄れようとしているじゃないか。

 

 正直、レギオンは僕にとって好きなゲームとは言えない。しかし悪い点だって喉元過ぎればなんとやら。特になんの思い出にもならなかったとはいえ遊ぶだけならレギオンはかなり面白い。 

 まず、なんといっても市民一人ひとりのスキルが非常に多種多様であるため遊んでいて本当に楽しいのだ。銃が強力だったり技が強力だったりと持つスキルによって使い勝手は本当に千差万別だ。テイクダウンモーションも相変わらずカッコいい上、それもキャラごとに複数用意されているため近接は非常に爽快だ。

 スパイらしい、ハッカーのような見た目とそれに相応しい能力を持つ「らしい」キャラに遭遇したときの喜びもひとしおだ。確かに稀であるがその分非常にテンションが上がるし愛着が沸く。自分だけのキャラを探す宝探しのような感覚はなんだかハクスラ然としていてついつい市民の厳選を始めてしまう。

 

 それに潜入や正面突破などのキャラごとに得意不得意が大きく違うのもすごくいい。普通のスキルポイント制のゲームならばステルスをしている最中に見つかった後も無双できるような両刀状態になることが大半であるため、緊張感はゲームを進める度に薄まっていくだけだ。それに対しこちらは気を抜けば一瞬でキャラを落とされてしまう。敵も次第に強くなるためいつだって適度な難易度で挑むことができる。

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催眠が強すぎる


 しかも単純に現代都市を取り扱ったオープンワールドは貴重だ。それが作り物のロンドンであるにも関わらず、相変わらず車で走っているだけで観光気分に浸ることができる。従来の観光要素無くなってしまったとはいえ一度テレビで見たようなあの建物や景色を見ることができるというのはやはり新鮮で楽しいものだ。

 というか今回のロンドンがマジで好きだ。マップのクオリティと密度、それと圧政の敷かれた湿っぽいロンドンの雰囲気は当シリーズの中ではマジで頭一つ抜きんでている。
収集物は豊富かつそのどれもが一味違った場所にあるためマップの作り込みに説得力があるし、スカウトミッションだって攻略した敵陣地に再び訪れる理由を与えてくれるため遊びごたえがある。

 

 本編終了後でもキャラが喋るきっかけがいくらでもあるというのも地味ながら貴重だ。クリア後に世界が終わってしまうことで強い虚無感を味わいがちなオープンワールドゲームにおいては嬉しい要素である。

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最後に水で薄めたジョン・ウィックを見てくれ

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 ただ。ただやはり僕はウォッチドッグスの醍醐味はバイクに爆発をぶつけたり、そこらのモブにギャングをけしかけたりなどといったコソコソしたイタズラ感にあると思うのだ。

 もう一度言うがレギオンはしっかり面白い。シリーズらしさが失われた分本作ならではの楽しさは詰まっているし、独自の魅力だって放っている。決して短くない当シリーズが持つ歴史や独自の世界観を広げる役割だってしっかりと持っているだろう。

 ただ、大小さまざまな点でウォッチドッグス「らしくない」し、血の通っていない「冷酷なゲーム」ではあり、そうでないことが僕にとって非常に重要であったということなのだ。

 

 『Watch Dogs Legion』はシリーズファンならやる価値はある。やって損はない。ただ、「ウォッチドッグスシリーズ始めたい!」と思った人が最初にどれを選ぶかという話ならば今作の優先度は最も低い位置にあるということは間違いないだろう。

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2はマジでめっちゃオススメです。