『APOGEE』を聴くべきは今なんじゃないのか?【推薦】
『APOGEE』は邦楽界のSEGA。そういえばここに訪れるゲーマーにも伝わるだろうか。
APOGEEはカッコいい。しかし知名度が低い。一部でちゃんと評価されているのが本当に救いであるとしか言いようがないぐらいで、失礼ながら今後”来る”ことは絶対無いであろうバンドだ。
ただわかることと言えば、彼らはSEGAのようにあまりに時代を先取りしすぎていたということだ。10年早いんだよ!ゲームギアのように、シェンムーのように!
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APOGEEの作る曲は良い。アレンジは繊細でボーカルの声はスピッツ草野のようび伸びやかで。シンセの使い方はクールで印象的だし、ドラムの音はダイナミックに耳に届いて心地いい。(俗にニューウェーブと呼ぶのか)
そしてなにより、ブラックミュージックをベースとしたモノが非常に多い。
そういった音楽は今じゃ割と普遍的なんだけど当時はかなり衝撃的かつ新鮮だったように思える。
ブラックミュージック。文字通り「黒人発祥の音楽」を差す言葉。ヒップホップやらジャズやらR&Bやら……、上げきれないぐらいジャンルがあり、最近の邦楽*1の構成要素として急激に増え、また好まれているほどに主要なジャンルと言える。
そういったムーヴメントの火付け役としてはSuchmosとかKing Gnuとか…星野源あたりを代表として挙げることができるかもしれない。きっとそこらへんで「ブラックミュージック」という言葉を知った人も多いはずだ。
で、そこが”邦楽界のSEGA”という部分にかかってくる。
APOGEEの1stデビューアルバム「Fantastic」が2006年リリース。それに対しどちらも大名盤で大人気であるSuchmosの「THE BAY」と星野源の「YELLOW DANCER」は2015年リリース。
ほれ見ぃ、10年の開きがここにある。2002年にオザケンが出したゴリゴリにビートを利かせたアルバムも反応は当時芳しくなかったらしいしな…あぁ、余計八極拳使いの言葉が説得力を帯びてきた。
だから別に、僕の独断と偏見で10年早いと揶揄してるワケではない。
彼らを知るみんながみんな、「10年遅ければ絶対人気だった」「今なら天下とれる」とか負け惜しみじみたことを言っている。
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文字通り10年早かった「Fantastic」というアルバムは1stであると思わせないほどクオリティが高い。デビュー直後とは思わせない程に洗練されまくっているし、そこはかとない神秘性すら漂わせている。
その中でも重量感と期待感がジワジワと高まるイントロが特徴的な「ゴースト・ソング」とシンセによる独特な浮遊感を持つ「夜間飛行」は格別に良い。もはや代名詞と言っても差し支えない。
うん、カッコよすぎて鹿になるわね。なんなら今聴くからこそ耳に馴染む気さえしてくる。あくまで当時感覚のモノであるから今ほど本格的では無いにせよ、十分それらの要素を感じ取ることができるはずだ。
APOGEEはメンバー全員が作詞に携わっている。そのため誰かの詩世界に浸る、とか独自の世界観を味わったりずるようなバンドではない。中にはすごく良い歌詞もあるが、実際聞いていると語感やおさまりを大事にしているように感じる部分は多いし、後に改心してたけど本人らも「歌詞なんてどうでもいい」とか言っていたりする。
その分、ブラックを日本向けにローカライズしたりうまい落としどころを見つけた際のメロディや、それを引き立たせるニューウェイブ的アレンジがすさまじく良いのだ。しかもその作曲すらメンバー全員がやるというんだから舌を巻く。
MVを見て気づいたかもしれないが、一見して明らかに変だったり奇妙なアートワークも彼らの特徴でもある。当時としてはかなり高等な映像技術を使っていたり特徴的な映像効果が使われていたりしていた。
これらMVの案出しを誰がしているかわからないが、結果として今でいう「とりあえずAC部に映像作ってもらおう」みたいな話題性とシュールさを突き詰めた結果寒ーい、サムシングエルス〜、みたいな映像群*2は、遊びが少なくタイトな楽曲のお陰で全然あざとくなっていない。まぁ、だからこそPVのヤバさが際立っているのだが…
しかしこれら魅力的なMVはほとんど見ることが叶わない。見れても動画だというのにどういうわけか音が飛んでいる。上に張り付けたPVも公式から出ているものではなく一般ユーザーが上げたものだ。
…APOGEEは一刻も早く公式Youtubeチャンネルを作れよ!!そこで過去PVをバシバシ公開しろ!!おかげで新規ファンを囲い込む手段がまったく無いじゃないか!!
待って、あったわ。このapogeepointが公式チャンネルだ。
公式サイトと同じ名前とはいえ「Official」とかつけないと普通に謎のチャンネルだなこれ…
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チャンネルに話を移すと、このapogeepointに挙げられているMVらは3rdアルバム「夢幻タワー」発表後、しばらくの沈黙(休止期間??)を経た後の楽曲たちだ。
4thアルバム「OUT OF BLUE」に収録された「Twilight Arrow」という楽曲にも例によって光と虚像を利用したユニークなMVがしっかりとついていて面白い。曲自体も非常にカッコいい。
そしてこのあたりから彼らの楽曲はニューウェーブ色が強くなり、また5th、「Higher Deeper」ではほぼ全曲が英詩になる。
英詩かよ。そう思われるかもしれない。確かにAPOGEEは歌詞に比重を置いたバンドではないにせよ、それらによってある種の神秘性や泥くささみたいなものは抜け、清涼感みたいな部分に特化してしまったところは否めない。
さりとて相変わらずブラックと邦楽の混ぜ方に関するバランス感は健在だ。それどころか事実上のリーダーであるVo,Gtの永野が休止期間中にCMソングをはじめとする様々な活動を手掛けてきたことで、楽曲の幅や実力はより増しているようにさえ感じられる。
休止期間を経てなお、圧倒的なパワーとビジュアルを見せてくれるAPOGEE。
デビュー当時からゆったりとしたスピードとはいえ、5th発表から3年ほど経つ今も製作を続けている様子はちゃんと確認できる。完成を待ってみるのも十分アリだ。
2021年5月30日
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APOGEE。現在のムーヴメントに対していち早く…どころか、あまりにもその方向へ向くのが早すぎたバンド。
しかし、だからこそ今なら誰もが楽しく聴ける音楽であるはず。「10年遅ければ…」「今なら…」という声だってそういった気持ちの裏返しなのだ。
だから僕からも負け惜しみを一つ。
APOGEEを聴くべきは今なんじゃないのか?
あと最後にというか…スナイパーが聴きたくてさ…Spotifyでも2ndを配信して欲しいです、お願いします…