『Stories Untold』は2周しろ。【推薦】
「本 読め」
「ドア 開けろ」
…こんな風に、80年代のPCアドベンチャーは対象+行動を入力することで操作していた。立ち絵も背景はおろかテキストボックスさえ無い、”文字通り”文字だけのゲーム構成。
[窓付き] を操作して『ゆめにっき』の世界で〔NASU〕を遊ぶ…といったように、主人公に指示を出すことで間接的にゲーム進行するのが特徴のテキストADV。実際に遊んだことさえ無いが…知ってはいる。「Zork」とかが有名なことも。
そしてこの『Stories Untold』もそんなテキストアドベンチャーの特徴を色濃く残したゲームである、という事も僕は知っている。
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『Stories Untold』は4エピソードで構成されたホラーADVだ。各パートごとにそれぞれ特色も操作も異なるが、基本的には命令することで物語が進む要素が大半を占めている。
PC版では実際に入力することで進行させるようだが、実際に僕が遊んだコンシューマー(Switch)版では入力の代わりにコマンド選択で進めることができるためタイピングが苦手でも問題なく遊ぶことが可能だ。
テキストADVを踏襲しているのだがら、文字だけでもなんら問題は無い。しかしこれは2010年代のゲーム。3Dグラフィックを追加していることによってそれには留まらない現代ホラーゲームらしい演出がしっかり入っている。
エピソード自体もひとつ毎におおよそ30分程度で完了する小規模なものばかりだ。パートごとにある人物を操作することになるが、その30分という短時間のなかで、みるみる内に不穏になっていく様子を見ることができる。
特に第1章、「The House Abandon(棄てられた家)」は元々単体で配布されていたこともあってか、完成度は頭一つ抜けている。
始めは主人公がどこか虚ろな別荘を探索することで懐かしさや思い出に浸る、というものなのだが、ある瞬間を境に一転してホラーめいたものになる。僕は徹頭徹尾コマンド入力を行っているはずだというのに、一体自分は途中から何をしているのかさっぱりわからなくなってくる。自分は誰を操作している?お前は誰なんだ?なにが起こっている?なんでこんなことをさせるんだ?そんな不穏な描写と演出。特筆に値する。
そんな短編が4本。遊べば遊ぶほど謎は深まるばかりだ。しかしそれがこのゲームの魅力であり、一気に今作の世界へ引き込まれる点でもある。
あるときは別荘の一室。ある時は吹雪の中のプレハブ。一貫性も整合性も感じられることのない、しかしどこか不気味なエピソードの数々はどれもプレイスタイル・雰囲気が異なる。繋がりも感じられないのになぜこれをわざわざ遊ばなければならないのか。それはきっと最後のテープを回した時にゲームがきっと教えてくれるだろう。
3時間もあれば十分クリアすることのできる内容ではあるが、エピソード内でのセーブは不可能なため、それなりに時間を確保して遊ぶ必要があることは忠告させて欲しい。
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この4つの事象は、1つの起こるべくして起こった悲劇が引き起こしたモノということは間違いない。しかし繰り返すが、荒唐無稽なそれまでの物語が輪郭を得て現れるのは最後のパートになってからだ。ぜひ根気強く遊んでみて欲しい。
ただ一つ言えることと言えば、画面をよく見て、そこに何が置かれているのかを注意深く観察してみて欲しいということだ。きっとどこかバラバラなはずのエピソードに妙な共通点が浮かび上がってくるはず。
そしてこのゲームを終える時、やっと見える景色とそこに現れるつながった一つの悪夢はきっとあなたに衝撃を与えてくれるに間違いないだろう。だからもし、僕があなたに命令を下すなら—
「ゲーム 遊べ」
「ゲーム 遊べ」だ。
一刻も早くここから立ち去りたい。
ここには愛が感じられない。
『APOGEE』を聴くべきは今なんじゃないのか?【推薦】
『APOGEE』は邦楽界のSEGA。そういえばここに訪れるゲーマーにも伝わるだろうか。
APOGEEはカッコいい。しかし知名度が低い。一部でちゃんと評価されているのが本当に救いであるとしか言いようがないぐらいで、失礼ながら今後”来る”ことは絶対無いであろうバンドだ。
ただわかることと言えば、彼らはSEGAのようにあまりに時代を先取りしすぎていたということだ。10年早いんだよ!ゲームギアのように、シェンムーのように!
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APOGEEの作る曲は良い。アレンジは繊細でボーカルの声はスピッツ草野のようび伸びやかで。シンセの使い方はクールで印象的だし、ドラムの音はダイナミックに耳に届いて心地いい。(俗にニューウェーブと呼ぶのか)
そしてなにより、ブラックミュージックをベースとしたモノが非常に多い。
そういった音楽は今じゃ割と普遍的なんだけど当時はかなり衝撃的かつ新鮮だったように思える。
ブラックミュージック。文字通り「黒人発祥の音楽」を差す言葉。ヒップホップやらジャズやらR&Bやら……、上げきれないぐらいジャンルがあり、最近の邦楽*1の構成要素として急激に増え、また好まれているほどに主要なジャンルと言える。
そういったムーヴメントの火付け役としてはSuchmosとかKing Gnuとか…星野源あたりを代表として挙げることができるかもしれない。きっとそこらへんで「ブラックミュージック」という言葉を知った人も多いはずだ。
で、そこが”邦楽界のSEGA”という部分にかかってくる。
APOGEEの1stデビューアルバム「Fantastic」が2006年リリース。それに対しどちらも大名盤で大人気であるSuchmosの「THE BAY」と星野源の「YELLOW DANCER」は2015年リリース。
ほれ見ぃ、10年の開きがここにある。2002年にオザケンが出したゴリゴリにビートを利かせたアルバムも反応は当時芳しくなかったらしいしな…あぁ、余計八極拳使いの言葉が説得力を帯びてきた。
だから別に、僕の独断と偏見で10年早いと揶揄してるワケではない。
彼らを知るみんながみんな、「10年遅ければ絶対人気だった」「今なら天下とれる」とか負け惜しみじみたことを言っている。
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文字通り10年早かった「Fantastic」というアルバムは1stであると思わせないほどクオリティが高い。デビュー直後とは思わせない程に洗練されまくっているし、そこはかとない神秘性すら漂わせている。
その中でも重量感と期待感がジワジワと高まるイントロが特徴的な「ゴースト・ソング」とシンセによる独特な浮遊感を持つ「夜間飛行」は格別に良い。もはや代名詞と言っても差し支えない。
うん、カッコよすぎて鹿になるわね。なんなら今聴くからこそ耳に馴染む気さえしてくる。あくまで当時感覚のモノであるから今ほど本格的では無いにせよ、十分それらの要素を感じ取ることができるはずだ。
APOGEEはメンバー全員が作詞に携わっている。そのため誰かの詩世界に浸る、とか独自の世界観を味わったりずるようなバンドではない。中にはすごく良い歌詞もあるが、実際聞いていると語感やおさまりを大事にしているように感じる部分は多いし、後に改心してたけど本人らも「歌詞なんてどうでもいい」とか言っていたりする。
その分、ブラックを日本向けにローカライズしたりうまい落としどころを見つけた際のメロディや、それを引き立たせるニューウェイブ的アレンジがすさまじく良いのだ。しかもその作曲すらメンバー全員がやるというんだから舌を巻く。
MVを見て気づいたかもしれないが、一見して明らかに変だったり奇妙なアートワークも彼らの特徴でもある。当時としてはかなり高等な映像技術を使っていたり特徴的な映像効果が使われていたりしていた。
これらMVの案出しを誰がしているかわからないが、結果として今でいう「とりあえずAC部に映像作ってもらおう」みたいな話題性とシュールさを突き詰めた結果寒ーい、サムシングエルス〜、みたいな映像群*2は、遊びが少なくタイトな楽曲のお陰で全然あざとくなっていない。まぁ、だからこそPVのヤバさが際立っているのだが…
しかしこれら魅力的なMVはほとんど見ることが叶わない。見れても動画だというのにどういうわけか音が飛んでいる。上に張り付けたPVも公式から出ているものではなく一般ユーザーが上げたものだ。
…APOGEEは一刻も早く公式Youtubeチャンネルを作れよ!!そこで過去PVをバシバシ公開しろ!!おかげで新規ファンを囲い込む手段がまったく無いじゃないか!!
待って、あったわ。このapogeepointが公式チャンネルだ。
公式サイトと同じ名前とはいえ「Official」とかつけないと普通に謎のチャンネルだなこれ…
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チャンネルに話を移すと、このapogeepointに挙げられているMVらは3rdアルバム「夢幻タワー」発表後、しばらくの沈黙(休止期間??)を経た後の楽曲たちだ。
4thアルバム「OUT OF BLUE」に収録された「Twilight Arrow」という楽曲にも例によって光と虚像を利用したユニークなMVがしっかりとついていて面白い。曲自体も非常にカッコいい。
そしてこのあたりから彼らの楽曲はニューウェーブ色が強くなり、また5th、「Higher Deeper」ではほぼ全曲が英詩になる。
英詩かよ。そう思われるかもしれない。確かにAPOGEEは歌詞に比重を置いたバンドではないにせよ、それらによってある種の神秘性や泥くささみたいなものは抜け、清涼感みたいな部分に特化してしまったところは否めない。
さりとて相変わらずブラックと邦楽の混ぜ方に関するバランス感は健在だ。それどころか事実上のリーダーであるVo,Gtの永野が休止期間中にCMソングをはじめとする様々な活動を手掛けてきたことで、楽曲の幅や実力はより増しているようにさえ感じられる。
休止期間を経てなお、圧倒的なパワーとビジュアルを見せてくれるAPOGEE。
デビュー当時からゆったりとしたスピードとはいえ、5th発表から3年ほど経つ今も製作を続けている様子はちゃんと確認できる。完成を待ってみるのも十分アリだ。
2021年5月30日
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APOGEE。現在のムーヴメントに対していち早く…どころか、あまりにもその方向へ向くのが早すぎたバンド。
しかし、だからこそ今なら誰もが楽しく聴ける音楽であるはず。「10年遅ければ…」「今なら…」という声だってそういった気持ちの裏返しなのだ。
だから僕からも負け惜しみを一つ。
APOGEEを聴くべきは今なんじゃないのか?
あと最後にというか…スナイパーが聴きたくてさ…Spotifyでも2ndを配信して欲しいです、お願いします…
『Digital Rain』/西島尊大
「この人何者なんだ…」という感情が聴くたび浮かびあがる。頑張って調べてみるが結局いまいち核心にたどり着けない人物、それが西島尊大。そもそも検索して得られる情報以上のことなんて無いのかもしれないが。
彼を知ったきっかけは『Digital Rain』。上質なインストだ。
僕は一瞬で聴き惚れた。すさまじく良い曲じゃないか。丁寧に作られたテクノジャズでどのフレーズも非常に洗練されすぎている。
盛り上げ方と曲全体のテンションが絶妙で、近代的なテクノではあるがサブカル臭さは感じない。ベテランアーティストが丁寧にテクノを作ったお陰でかゆいところに手が届いてる、みたいな気持ちになる。
「いいなこの人…」そう思っていた最中、実のところ西島尊大はボーカロイド曲をメインに製作していると知った時はあまりの衝撃にぶっ飛んだ。だってこの曲、テクノではあるけど全然ボカロっぽさはないんだもん。
単にインストだからそう思わされたのかもしれない。でもそれを差し引いてもボカロ…?ここから?マジで?
なら…とそちらも聞いてみると、これまたぶっ飛んだ。『Digital Rain』とは打って変わってめちゃくちゃにユニークかつ高度なことをサラリとやってのけているじゃないか。曲調も様々でそのどれもがカッコいい上にやっぱりボカロっぽくない。
具体的にはジャスとかオーケストラ音楽の空気感だ。『1009転調』とかユニークさの最上位で、マジで何者なんだと検索するがやっぱり核心にはたどり着けない。動画サイトの再生回数は1~2万いってりゃいいほうで、その上動画概要欄にはほとんどなんも書いてない。
待ってくれ、この人は本当に生きてるのか…?そもそもなんでボーカロイドを…?怖い怖い!!実は大物アーティストが片手間にやってるプロジェクトじゃないだろうな!? ウェブサイトのアー写は信じないからな!!
謎は尽きない。しかしこの匿名性……僕は完全に西島尊大の虜になったのだ。というか彼が何者かどうしても気になってしまうのは明らかに『Digital Rain』から知ってしまったせいだ。完全に入り方間違えたね…。
『Cyberpunk2077』に化かされているのか?【感想】
ついにきやがったこの時が。
サイバーパンクという世界観。僕は「AKIRA」とか「攻殻機動隊」とか。ましてや「ブレードランナー」すら見たことがない。強いて言えば『VA-11 Hall-a』をやったぐらいのもの。あとマトリックスは観た。
しかしどんな世界感であるかぐらい知っている。雑多な町に雑多な人体、やりすぎな程の階層社会にロマンを感じない人間がいるか?いないはずない。確かに僕は名だたる名作は観ていないが、しかしもはやそんなことはどうだっていいのだ。サイバーパンクという情熱は誰にだって止めることはできないのだから。
もうこのゲームの概要は省く。恐らくこのゲームをプレイする人たちは僕と同じように延期を味わい、その間にゲームの情報を漁っているからだ。絶対「Night City Wire」見たでしょ?僕も何回も見たもん。見てない?見てから来てくれ。
…とはいいつつ新規の人向けにネタバレ控えめでコンテンツをオススメするブログなのでザックリとだけ紹介しておく。
レトロフューチャーな2077年の世界で成り上がるため、脳内にキアヌ・リーヴス(が演じるキャラ)を飼ったVという主人公を演じながら無法の街、ナイトシティで成り上がるというオープンワールドRPGゲームだ。
TRPGを原作としたゲームで、サイバーパンクという名の通り冒頭で並べた作品のような世界感を楽しむことができる。幾度も延期を繰り返してなお2020年最大の期待を寄せられたゲームと言って差し支えないだろう。
コイツは5ヶ月 7ヶ月 8ヶ月の延期を経てやっと僕の手もとに届いた。幾度となく延期が発表されついには12月。タイトルの発表は2012年からあったようで…そこからチェックしてた人マジでお疲れさまでした。NKT…
1年間も延期の呪いに縛り付けられたのだから楽しくないってことはあり得ないだろう?生半可な出来なら待った甲斐すらなくなってしまう。今作に向ける僕の目は厳しい。僕は2077年現在全米で最も住みづらい都市ナイトシティに定住するのだから。
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今作の舞台となるナイトシティが文字通り怪物級のマップであることは言うまでもないだろう。巨大なビルが立ち並ぶ都市部にはギャングと汚職で。工業地帯は煙と排水に。街から出れはサボテンと安い車でひしめいている。このナイトシティは架空の世界。しかしその場所やオブジェクト一つ一つが強い説得力を持っているため世界観の構築という意味としてのマップは他のゲームと比べても雲泥の差が存在している。圧巻だ。
その広くない代わりに(それでも十二分に広いが)縦方向への密度を高めたマップは何度訪れても既視感を感じさせることが無い。普段通る場所でも来た方向が変わるだけで印象がガラリと変わるのは現実でも存在するが、ナイトシティではそれを何度でも感じることになる。こんな感覚をゲームで味わうのは初めてでそう感じさせてくれているのはやはりナイトシティが持つ密度のお陰なのだ。
いつも通る場所のそばにエレベーターや階段があることに気づくというのは日常茶飯事でいつだってプレイヤーに発見の連続を与えてくれる。屋根を登った先、ビルに飛び移った先、エレベーターに乗った先。二度と訪れることは無いであろう場所も想像以上に作りこまれているし、見慣れた巨大なビルは角度を変えるだけで大きく表情を変え、いつだって僕たちの目の前に現れてくれる。
何かに気づき、その先に見える景色を楽しむという行為は『ゼルダの伝説BotW』にも似た感覚を呼び起こさせてくれる。その先にコログが無いことはわかっているのにどうしてここまで歩くことをやめられないのだろう。
二段ジャンプのサイバーウェアはマジでオススメ。というかこういう楽しみを得るには必須。
この『BotW』のような体験は何度も言う通り立体的なマップ構造によるものだ。どのようにそこに向かうか、どの方向から訪れたかでたどり着くまでのプロセスが大きくかわるためナラティブ性のあるマップが作り上げられている。
それは散策だけではなく戦闘についても同様で、どのルートから攻めどのように引き上げるかは能力値も関係するため、より深い個々の体験を得ることができるはずだ。(戦闘の頻度とか大味さは一旦置いておいて。)
とにかく散策がめちゃくちゃ楽しいのだ。キレイな公園の端に隠されたゴミ山。巨大な施設やタワーの周りにある飲食店。路地裏にある血痕を見つけるたびにナイトシティがどんな場所なのかをコントローラーを通して全身で感じることができる。
エレベーターだってわざわざ扉を金網にして移動している様を見せてくれるし、高所に向かうソレではマジで長い時間をかけてその階まで上るなど本当にエレベーターで移動しているのだ。この移動の楽しさはなんなんだ…?どうしてなんだ…?
ナラティブ性のあるマップ、でかいビルとはいえそれだけではナイトシティは完成し得ない。特筆すべきはナイトシティ中に散らばる広告や文字や住民の装いだ。
トーク番組で流れる話題。炭酸飲料やエナジーバーのCM。ギターであの名曲を弾くオッサン。極彩色の服に身を包んだ女性。背景でサラリと流れてしまうひとつひとつがどれも2077年という時代やナイトシティという都市を読み解く足がかりとして大きなウェイトを占める要素であり非常に美味しい。美味しいのだ。(大事なので2回)
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そしてそんなマップとともにに繰り出されるミッションはマジでヤバい。メインミッションは下手すれば1、2時間は平気でかかってしまうような(その半分がドンパチだとしても)大ボリュームだ。ただメインミッションは「キアヌチップvsV」という構図を描くだけで、ドラマチックではあるものの面白い部分はそこまで担っていない。
真にヤバいのはサブクエストだ。Vに密接に関わるストーリーやメインキャラのその後が展開されたりするので本当に気が抜けない。これサブクエで良いのかよ!?という驚きは尽きない上、早撃ちを競ったりタクシーを追いかけたり歯が立たない相手に立ち向かわねばならなかったりするなどミッションの物量に応じてそのどれもがバラエティ豊かだ。
このゲームもオープンワールドスタイルにありがちなマーカー先でクエストを受け、次のマーカー先で戦闘をするような「おつかいゲーム」であるわけだが、クエストのストーリーラインは全くワンパターンではないし、そこからさらに発展する話もあるため随所に飽きさせない工夫が施されている。
演出一つとってもインプラントのエラーや目線の誘導など非常に秀逸で一人称視点であるという事の重要性は嫌というほどわかるはずだ。
とはいえサイバーパンクの売りの一つである「多岐にわたる物語」は実際あまり感じる事ができ無かった。
一部では分岐に関する力の入れようがひしひしと伝わってくるのだがそれを感じるのは一部ミッションであり、それ以外のほとんどは戦うかステルスか、話し合いで解決するか程度の選択しか設けられていない。それに加えて主人公の出自によって異なる会話をを選択しても劇的な変化をもたらしてくれるようには感じないのだ。デトロイトのようなバタフライエフェクトも極一部で、なんだか「レール上の自由」感は否めないように思う。
ストーリーの他にも車がプッシュされているのにレースが極端に少ないとか、ソロとネットランナーの他に「テッキー」というロールがいつの間にか消えていたりとか、電車が無かったりとか、「これもしかして本当はもっとああしたかったんじゃないか……??」 みたいな場面に遭遇する瞬間は非常に多い。実際その名残をゲーム内の随所で見ることができる。
実際に細やかな分岐が設けられているのかどうかは周回プレイをしていないため真偽はわからない。もしかしたら僕が気づかないぐらい分岐が自然であっただけなのかもしれない。(恐らくこちらが正しい)しかし「分岐する」という確実な提示が無ければ肝心な周回する意欲は薄れてしまうように思える。
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ていうかサウンドトラックがヤバい。マジでヤバい。ラジオはやらBGMのほとんどがテクノ、ロック、ラップなどめちゃくちゃ好戦的な曲ばかりで構成されている。町中やカーステレオで聞こえる楽曲達はすべてが印象的でクール。しかもその大部分がこのゲームのために書き下ろされたというんだから驚きだ。ヤダァ ウソォ ホントォー?
いやマジでラジオで留めておくのもったいなくないか…?もっといろんな場所でガッツリ効果的に使っていいレベルでどの曲も高クオリティでカッコよくて多種多様だ。
特に戦闘曲はめちゃくちゃクールだ。
こんなのが流れてくるんだから戦闘時のボルテージは上がりっぱなしだ。
僕だって他人よりはゲームを遊んでいる自身があるけどここまで大規模なゲームのサントラで微妙に思える曲が無いことは稀有だ。サントラだけでも聴く価値のあるゲームであることはここで強調させてほしい。
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で、だ。サイバーパンクを遊ぶに際して発生するバグや動作不良に関する話題は避けて通れないように思う。
実際遭遇するバグは縁石程度で落下死したりチュートリアル表示が再起動するまで居残り続けるなど没入感を損ねるものばかりだ。そして何より落ちる。アプデが入って頻度は落ちたがそれでも落ちる。(12/30当時)その上僕はPS4版でプレイしているためフレームレートはガタガタだし画面はぼやけている。
正直ここまで不具合や最適化が進んでいない部分が多いとげんなりしたりムカついたりする瞬間は往々にしてある。ここまでやられると「現行機向けに発売する」という発言も延期報告などを見るにあまりに薄っぺらい言葉に感じてしまうのも事実だろう。タケムラの無言電話バグは大好きだけど。
ただ、なんというか、このゲームをやって明らかになったのは『僕は』画面のぼやけやfpsの低さはさほど気にならないという事だった。ガッツリ私事な上に完全に気にならないわけではないのだが、とにかく僕はそうだと浮き彫りになったのだ。オフゲーに限るが。
元よりこの物量と度重なる延期を見て不具合が無いことを期待するプレイヤーが果たして存在するのだろうか。ゲームに少し詳しければある程度予想できることに加え、恐らくこのゲームを手に取る人はマニアかそれに片足突っ込んでる人ばっか…ですよね?
そもそもゲームの評価にバグだの不具合なんて考慮したくないんですよ僕は!!不具合がそんなに気になるならリニアゲーだけやってりゃいいのだ。しかしそんなこと言うほど僕らのゲームに対する熱は冷めてない。ただでさえ昨今のゲームは肥大化してるのだから大小のバグ程度発売後に修正すればいい。少なくとも僕はそれを認めてるしそれを許せる世の中であって欲しいと思っている。雑な擁護をしてしまったか。
『ウィッチャー3』だってリリース直後はなかなかバグが多かったという話を小耳に挟んだことがある。それでも『ウィッチャー3』が評価され、今作に期待が寄せられたのはグラフィックやバグを越えた先にある部分では無いのだろうか。(僕は未プレイ)
ただ今回でその手の反省が生かされてない上に問題のある開発方法を行ってしまったことからは目を逸らすべきではないのだと思う。
ゲーマーの皆様
— CD PROJEKT RED Japan (@CDPRJP) 2021年1月13日
CD PROJEKTの共同設立者より、『#サイバーパンク2077』の発売に至るまでの開発の様子についての見解および、旧世代機版についてのスタジオの見解をご説明しています。 pic.twitter.com/fQW11rgqIq
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最終的にこの『サイバーパンク2077』というゲームは絶賛できるか?毎日ポンポンしたいか?と聞かれれば、僕を含めほとんどのユーザーが「2020年を代表するゲームの一本だが傑作ではない」と答えるだろう。
今作の物量はすさまじい。散々言われているが悪いゲームではないし、不具合を差し引いても胸を張って人にオススメすることができるゲームであることは間違いないのだ。何度も言うがマジでマップが素晴らしい。ナイトシティ大好きだ。しかし悲しいかな、僕は今作にそこまで入れ込むことができなかった。
それはこのゲームに存在する空白のためだ。時間か容量の原因によって切り詰めてしまったのか、そもそも消してしまったのか。どちらにせよ無数のコンテンツの名残によってその空白部分が確実にプレイヤーを蝕み、なぜだか物足りなさを感じてしまうという不遇なゲームなのだ。
繰り返すが今作の物量はすさまじい。その上面白い。ただ『Night City Wire』の映像や言葉を額面通り受け取るとCS版でもPC版でも手痛いリターンが返ってくるように思えるので、過度に期待は避けたほうが良いのかもしれない。
しかしその先にある世界(主にマップ)に魅了されることからは避けられない。ザックリとは言えロードマップも公開されたので本作の真の評価を決めるのは『ウィッチャー3』同様にアップデートやDLC配信後でも遅いという事は無いだろう。多分。おそらく。
2020年の楽曲BEST10を決めていく。
あけましておめでとうございます。
2020年の大部分を家で過ごしたため音楽を聴いている時間がゲームと同じぐらい増えました。
いくつかライブに行く予定もあったのですが延期になったり中止になったり、場所が変わって断念したり。結局今年…というか自粛が本格的になってからライブ行ったのは1回だけだったのでやっぱり寂しいかったのですが、「なんだかんだで無くても生きれるな…」と気づいた1年でもありました。
というわけで今年聴いた曲で特によかったなという10曲を絞ってオススメします。(唐突)
めんどくさいから前書きはいいんだよ!!以前は買ったモノとか書いてたんですけど絶対こっちの方が需要あるわと気づきました。そもそも今年は真新しいモノ買えてないしな!!
- 今年リリースされたもの。
- いちアーティストにつき一曲。
- 特に順位は無い。
- 完全に僕の好み。
という事を念頭においてご覧ください。
- 『何なんw』/藤井風
- 『HORN』/Kroi
- 『In Your Eyes』/The Weekend
- 『Hole in The Sun』/Point Break Candy
- 『海猫』/中田裕二
- 『Lucky Sue』/Men I Trust
- 『紫陽花と雀』/大槻美奈
- 『感電』/米津玄師
- 『Drifting』/Cassia
- 『愛なんて』/SPENSR
- 『The Plan』/Travis Scott
『何なんw』/藤井風
2020一押しアーティスト。Youtube発の…そもそもyoutuberなのか?未だによくわかんないけど『青春病』とか『へでもねーよ』とか作る曲は相変わらず最高。
Vaundyとか秋山黄色とか同列に語られる人はたくさん居たけどなんだかんだ藤井風に落ち着きました。要注目。
やっぱりイケメンを見てると心が洗われるなぁ。というか細かい内容は↓に書いてあるのでそっち参照。
『HORN』/Kroi
去年から結構伸びているバンド。どうやらYoutubeの広告は偉大らしい。(広告見たかった)
「黒い」という読みの通りブラックミュージックを中心に多くの要素を含んだ楽曲を発表している彼らのことをただ「カッコいいミクスチャーバンド」だと思っていたんだけど、この『HORN』はその中でもめちゃくちゃ小気味よくてラップとかブラックでは留まらないぞという感じがビシビシと伝わってくる。要注目。
高音多めで風通しの良いボーカルと、それとは対照的にメロディはバキバキの音を出しているのでスルリと聴くことができてしまう。位置エネルギーのおかげでゼロカロリーなのであるみたいな感じ。全然違う。
あとすげーどうでも良いんだけどボーカルの髪型が僕の友達そっくり…というか同じだからMVを見るたびにそいつの事がよぎります。
『In Your Eyes』/The Weekend
『Bliding Lights』がめちゃくちゃハネた上に良い曲なんだけどコレは2019年の曲なので上げるのはこの『In Your Eyes』のほう。それにこっちの方が好み。
グラミー賞一歩手前で逃したウィーケンド抜きで2020年を語れないのは明白だよね。賞なんてどうでもいいんだよ!!クソ!!!
80年代まっしぐらを現代に召喚したのが『Bliding~』だと思うんだけどそのテイストにウィーケンドらしいちょっと不気味なテイストを味付けしたのがこの『In Your~』だと僕は感じる。つまりいいとこどり。というかこんな曲をチャートで見ることがあるか?(絶対ある)
僕自身チャートはあまり活用しない人間なんだけど、その中に煌々と輝くこの楽曲、ひいてはアルバムはやっぱり評価されるべきなんだろう。僕も好き!!
『Hole in The Sun』/Point Break Candy
『サイバーパンク2077』収録曲。どことなく下品で傍若無人な雰囲気を纏うこの曲はゲームの舞台であるナイトシティのストリートが持つ雰囲気をしっかり再現している。
黄色の唇に青のベロというアートワークもそれに拍車をかけまくっている。ていうか僕、スプリットタンってマジでダメなんだよ…なんか常軌を逸してるというか…
歌は最初から最後までテンション高め、かつ銃かファックかみたいなことを延々と言って終わる。殺戮を楽しんでいるんだよ貴様は!!(ちゃんと歌詞見てないけど)
あとゲームの感想書いてる最中なのでちょっと待っててください。
『海猫』/中田裕二
2020年内に二つもアルバムをリリースした化物、中田裕二の一曲。
マジでクッソかっこいい。音楽のトレンドがリバイバルされ始めてしばらく経つが、彼はいち早く…というか元からそこに居た。追い風という部分もある上にソロとして活動しだして9年の時を過ごしてここまで才能というのは枯れないものなのかと僕は立ち尽くすだけだ。
普遍的なバンドサウンドなんだけどアンニュイなツインギターはどこか遠くを眺めているようで切ない。『白日』みたいな曲作るのマジで得意だよね。でも彼は最近こういうチルっぽい曲しか作ってない。『ダブスタ』は起伏があったけど『ポータス』はテンション均一気味なアルバムなのもあって正直飽きが来たのでまたマレダロみたいな曲作ってくれ…
『Lucky Sue』/Men I Trust
カナダ発のドリームポップバンド。たまに来日してるらしい。ドリームポップということもあってめちゃくちゃ落ち着く上にふんわりとしたかわいさを持つ曲を作ることに関しては彼ら…ひいては彼女を信用してもいい。トラスト。
気怠げなボーカルが一定のリズムに乗って続くのになぜか退屈することなく、それどころかどこか心地よくていつの間にか曲が終わってしまっている。そういう時間を忘れさせてくれる曲だった。
明らかにMen I Trustっぽい曲なのにどこか他人行儀な雰囲気を醸しだしているのはなんでなんだ。空気の厚い層がそこにあって触れられないみたいな気持ちになる。
あと 「2倍速にするとマリオカートのBGMみたい」というコメントがあったのでその通りにしたらなかなかそれっぽくて面白いのでみんなもやってみよう。
『紫陽花と雀』/大槻美奈
美しいピアノを奏でながらどこか好戦的な曲を作る大槻美奈のコンセプトアルバム『BARD』収録。
例によってこの曲もめちゃくちゃカッコいいし芸が細かい。ピアノが良いって言ったけどそれと同じぐらいカッコいいのがシャキシャキ音を刻んでくれるドラム。詳しくは↓で。
『感電』/米津玄師
さすが米津みてぇな曲であり意欲作。音で遊んでることが多いのがハチからの特徴だと思うんだけどそれが今回ではめちゃくちゃ顕著に出ている気がする。しかもその遊びが今まで以上に心地よいしエクスクラメーションになってる。それにこんなにホーン系の楽器がなってるのって初めてだろうにここまで使いこなせちゃうもんなのか。やべぇよ。
タイアップしまくりの中でこれだけのクオリティを出せるのってやっぱり才能で溢れてんだなーと感じる。しかもそれがアルバムでも崩れてない。比べるわけじゃないけどKing Gnuの『CEREMONY』はシングル集みたいで既視感をどうしても感じちゃったしね。
あと笑顔とか舌を出す米津君が見れるMVは多分後にも先にもこれだけだぞ。多分。
『Drifting』/Cassia
インディーポップを発信しているイングランド出身のバンド。
僕はこういう牧歌的な曲が大好きなのだが、PVのロケーションも合わさってその雰囲気が何倍にも膨れ上がっている。めちゃくちゃ良いところだけどどこなんですか?そこ。
しかもメロディが日本っぽいキャッチーさを持っているように思える。インディポップ系なのだと言われたり他の曲を聴けば「ああ、洋楽だこれ」と納得できるんだけど最初に聴いたときは日本の曲だと思いました。だからという訳ではないんだけどすごく親近感を抱いてしまうし実際にそうなっている。
どこかで聴いたことがあるんだけどちょっと個性的なCassiaが送るこの曲は間違いなく名曲だ。
『愛なんて』/SPENSR
2020一押しアーティスト(重複)。
電子音を主軸に曲を作っているんだけどなぜだか生っぽいグルーブ感を感じるSPENSR。特にその気が強いのがこの『愛なんて』だ。しかも彼の唯一の日本語表記曲。
ていうか頭からつま先までゴリゴリな電子でネオソウル(合ってる?)が成立できてしまうんだなぁと聴くたび関心してしまう。いや僕が触れてこなかっただけか。
というか、この曲に留まらずだけど相変わらずベースが良いよ。ベーシストなのか疑うレベルで良い。そこにちょっと神経質っぽい声がとてつもなく合ってしまっている。必聴。
あと直近に行われたライブのアーカイブを1/3まで公開しているので今のうちに見よう。マジで見よう。
【2021.1.3まで】SPENSR Streaming Live “Wrapped 2020” - YouTube
『The Plan』/Travis Scott
映画『TENET』エンディング曲。開幕の低音がめちゃくちゃカッコよくて映画館で聴くと和太鼓を目の前で叩かれているかのような腹がズンズン鳴る感覚を倍にしたような体験ができた。
プランにはに劇伴の、劇伴にはプランの要素がいくつか顔を出しているため映画を見てから聴くとついついニヤリとしてしまう。(特に二回目以降)
特に曲最後に流れる『Meeting Neel』の一節は鳥肌モノ。トラヴィスのゆっくりとしたフロウもかっこいい。劇伴からこのプランにたどり着くまでの音楽が持つエッセンスの残し方は秀逸で、まさに映画のエンディングと言える楽曲。
「11曲あるじゃん!!」と投稿してから気づきました。この中で降ろすならMen I Trustです。でもせっかく書いたんで残しておきます。断腸の思いで曲を選び、書くために何度も聞きなおしたり、素人レベルの拙い分析をしたりと意外と時間とカロリーかかる作業をしてるのです。もったいない!それに好きな曲であることには間違いないからね!!
という訳で僕の2020年の曲ベスト10(大嘘)でした。みんなの2020年ベストも教えてね。