『Stories Untold』は2周しろ。【推薦】

「本 読め」
「ドア 開けろ」

 …こんな風に、80年代のPCアドベンチャー対象+行動を入力することで操作していた。立ち絵も背景はおろかテキストボックスさえ無い、”文字通り”文字だけのゲーム構成。
[窓付き] を操作して『ゆめにっき』の世界で〔NASU〕を遊ぶ…といったように、主人公に指示を出すことで間接的にゲーム進行するのが特徴のテキストADV。実際に遊んだことさえ無いが…知ってはいる。「Zork」とかが有名なことも。

 そしてこの『Stories Untold』もそんなテキストアドベンチャーの特徴を色濃く残したゲームである、という事も僕は知っている。

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 『Stories Untold』は4エピソードで構成されたホラーADVだ。各パートごとにそれぞれ特色も操作も異なるが、基本的には命令することで物語が進む要素が大半を占めている。
 PC版では実際に入力することで進行させるようだが、実際に僕が遊んだコンシューマー(Switch)版では入力の代わりにコマンド選択で進めることができるためタイピングが苦手でも問題なく遊ぶことが可能だ。

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右下の選択画面で進める。

 テキストADVを踏襲しているのだがら、文字だけでもなんら問題は無い。しかしこれは2010年代のゲーム。3Dグラフィックを追加していることによってそれには留まらない現代ホラーゲームらしい演出がしっかり入っている。
エピソード自体もひとつ毎におおよそ30分程度で完了する小規模なものばかりだ。パートごとにある人物を操作することになるが、その30分という短時間のなかで、みるみる内に不穏になっていく様子を見ることができる。

 特に第1章、「The House Abandon(棄てられた家)」は元々単体で配布されていたこともあってか、完成度は頭一つ抜けている。
始めは主人公がどこか虚ろな別荘を探索することで懐かしさや思い出に浸る、というものなのだが、ある瞬間を境に一転してホラーめいたものになる。僕は徹頭徹尾コマンド入力を行っているはずだというのに、一体自分は途中から何をしているのかさっぱりわからなくなってくる。自分は誰を操作している?お前は誰なんだ?なにが起こっている?なんでこんなことをさせるんだ?そんな不穏な描写と演出。特筆に値する。

 

 そんな短編が4本。遊べば遊ぶほど謎は深まるばかりだ。しかしそれがこのゲームの魅力であり、一気に今作の世界へ引き込まれる点でもある。
 あるときは別荘の一室。ある時は吹雪の中のプレハブ。一貫性も整合性も感じられることのない、しかしどこか不気味なエピソードの数々はどれもプレイスタイル・雰囲気が異なる。繋がりも感じられないのになぜこれをわざわざ遊ばなければならないのか。それはきっと最後のテープを回した時にゲームがきっと教えてくれるだろう。

 3時間もあれば十分クリアすることのできる内容ではあるが、エピソード内でのセーブは不可能なため、それなりに時間を確保して遊ぶ必要があることは忠告させて欲しい。

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この4つの事象は、1つの起こるべくして起こった悲劇が引き起こしたモノということは間違いない。しかし繰り返すが、荒唐無稽なそれまでの物語が輪郭を得て現れるのは最後のパートになってからだ。ぜひ根気強く遊んでみて欲しい。

ただ一つ言えることと言えば、画面をよく見て、そこに何が置かれているのかを注意深く観察してみて欲しいということだ。きっとどこかバラバラなはずのエピソードに妙な共通点が浮かび上がってくるはず。
 そしてこのゲームを終える時、やっと見える景色とそこに現れるつながった一つの悪夢はきっとあなたに衝撃を与えてくれるに間違いないだろう。だからもし、僕があなたに命令を下すなら—

「ゲーム 遊べ」
「ゲーム 遊べ」だ。

               一刻も早くここから立ち去りたい。
                  ここには愛が感じられない。