『The chef cooks me』に親近感を感じる。

すばらしいバンドだ。『The chef cooks me』。

何人が知ってるんだ。『The chef cooks me』。

もっと知って欲しい。『The chef cooks me』。

僕は何度でも言うよ。『The chef cooks me』、名前を覚えて欲しいからね。(以下シェフ)

 

ASIAN KUNG-FU GENERATION』を知っている人は数多くいるだろう。

国民的な超有名バンドだ。知らなくても「ソラニン」とか「リライト」あたりは聞き覚えがある人は多いはずだ。リライトシテエエエエエエエ、とかタトエバアアアアアの。

そんなバンドのフロントマン、Gotch(後藤正文)がプロデュースをしたバンド。それがシェフ。

 

シェフの最大の特徴はシェフを束ねるリーダー、下村亮介が持つ、作曲能力と編曲能力のずば抜けた高さにある。

 

流転する世界

流転する世界

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 30秒で魅力は伝わる。流れるようなメロディに弾むドラム、大胆な転調。

それに合わせて体も動くよう。最高だ。 

 

光のゆくえ

光のゆくえ

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満ち足りる音楽だ。

芯からジワジワ暖かくなっていくよう。この春心地にピッタリな王道のポップスたち。きっと曲を聞いた大多数が「良い」と感じること請け合いだろう。

この2曲に加え上質なポップスが多数収録された「回転体」というアルバム。ポップ史に名を刻まれた名盤だ。必聴である。

 

こういったポップスを作るのが下村は本当にうまい。

この『PAINT IN BLUE』もいいだろう。ちょっとムシっとした夏の雨の日を清々しく思い出せてくれる。

前奏のタンバリンとサビ前のピアノをピロピロッてする奴がわかりやすく気持ちを盛り上げる準備をしてくれる。もはや説明不要だ。

 

 

アジカンに縁があるシェフはAKGトリビュート」というアジカンのコンピレーションアルバムに参加している。そこでは『踵で愛を打ち鳴らせ』を大胆かつ秀逸にアレンジした。

 


こっちはオリジナル。良い。

 

しかし残念ながらこのコンピ、サブスク解禁されていないため残念ながら実物を手に取らなければ聴くことが出来ない。

元のロックとはあまりにかけ離れ過ぎていて本当に同じ曲なのか疑問に思えてくるアレンジはぜひ一度聴いてもらいたいのでレンタル等して聴いてみて欲しい。*1

後述する最新アルバムではより一層アレンジが加えられた「踵」も聴ける。

 

シェフ自身の楽曲もいくつかアレンジが加えられて収録されたアルバムもあり、その差異を聞き比べることが非常に楽しい。下村の持つポップスとアレンジの才能。僕はこれがたまらなく好きなのだ。

 

そしてそんな耳ざわりの良いメロディに乗せてこんな歌詞が飛び込んでくる。

 

口笛を吹いて歩けば誰かに指さされて

歌なんて歌えば「狂ってる」か「能天気」か、「変わり者だ」って白い目で見られる

気にかける僕はがんじがらめになった小市民さ

The chef cooks me/パスカル&エレクトス

僕の事か?いやシェフのことか。

僕がシェフへの思いが確実なものになったのはこの曲、この歌詞のおかげだ。

下村は才能に溢れている。それは僕程度の一般人では届きそうにないぐらい。

しかしこの歌詞。「ただの音楽好き」という気がして仕方なくないか?

下村は凄いくせにどうしようもなく一般人めいていて、電話をかければ出てくれる。そんな雰囲気がある。

 

Say out さぁ この頃はどうだい?

顔のない「みんな思ってる」は

耳鳴りみたいに音になりもしない

The chef cooks me/最新世界心心相印

そうやって彼はいち音楽ファンとして歌ってくれる。どんなにネガティブな曲や歌詞でも、芯が通っていてどこか優しい、綿菓子のような歌い方で。つい耳を傾けてしまう。

 

こんな風に僕はシェフを楽しんできた。 心地いい満ち足りたポップスを。

そして19年10月にリリースされた、約6年ぶりとなったアルバム「Feeling」。これを僕は待っていた。またあのポップスを届けてくれるのだろうと胸を弾ませていたのだ。

 

しかしアルバムリリース直前に発表された『CP』という楽曲。これが凄まじいのだ。

 

今までと激しく毛色が違う。

暗い印象を受ける曲調に元気さを感じない歌声。その上韻を踏んだ今風の歌詞。「なつみSTEP」ぐらいの豹変ぶりじゃないか?違うか。

iTunes上でのジャンルも〈J-POP〉からオルタナティブに代わっていることからもそれがうかがえるだろう。(ジャンルの定義とか詳しい話は置いておいて。)

 

 一体何が起こったのか。僕は知っていた。

シェフを構成するメンバーが脱退により下村一人だけになってしまったのだ。

かつてはシェフに何人もいた気がする。そこまでメンバーに目を向けていたわけでは無いのが悔やまれるが、PVや楽器の数から察するに参加していた人が数多くいたはずだ。

それが今や一人。

 

押し殺すたびに 錆びていったFeeling

内に満ちた妬み嫉み 知れば知るほどに

芽吹くself loathing

両手で摘むように

触れて その場しのぎの愛で

The chef cooks me/CP

この歌詞。セルフロージング(自己嫌悪)だなんていままでにないネガティブさだ。

日々のすばらしさや好きな音楽について歌っていた下村はどこへやら。まるで心中を吐露されているよう。

 

この『CP』が収録された最新アルバム、「Feeling」も全体的に影を帯びた曲が多く、ジャケットの透明感*2とも正反対に感じる。

 

しかし、今までのシェフ像からは大きく逸脱した楽曲の数々に、僕はいたく感動した。こんな曲まで作れるのか、と。

 

しかも「Feeling」は下村のソロプロジェクトではない。あくまで一人のシェフではあるが、『group_inou』のimaiや『YeYe』など多くのアーティストがフィーチャリングされた楽曲が半数も占めている。

一人なのに一人じゃないのだ。シェフ=下村にするのではなく、あくまでバンドという形態を貫いたのである。

 

「シェフ」でいるこいることの意義。下村という人間や音楽の在り方。Gochiプロデュースというレール。相当に悩んだはずだ。それは色んなインタビューやMCで知れる。

 

 一人だからこそ外部の力が強くなる。取り入れられる。他アーティストの特色を引き出した楽曲群が制作できたのも下村だけになってしまったというケガの功名なのかもしれない。

シェフという世界から下村自身を極限まで解き放ったアルバム、「Feeling」は聞くほかないだろう。

 

ああ、僕の胸を焦がす世界中の歌。

どうか一つとして消えないでおくれ

君は僕の 全て。

The chef cooks me/Song of Sick

僕も同じ気持ちだ。シェフは僕の一部。

才能あふれる小市民はまだまだ続くのだろうか?どうか消えないでおくれ、これからも。

 

*1:実はYoutube上にこっそりアップされているので調べてみよう。

*2:「Feeling」には紙が入っておらず、まっさらなプラケースにCDが入っているのみのデザインとなっている。

カクテル、猥談、人生。『VA-11 Hall-A』の【感想】

20年4月に『サイバーパンク2077』が発売されると聞いていた僕は、気分を高めるためにサイバーパンクにまつわる映画やアニメ、ゲーム巡りをしようと考えていた。

僕はそのうちの一つ、"サイバーパンクバーテンダー・アクション"と銘打たれた『VA-11 Hall-A』(ヴァルハラ)というゲームをプレイしようと考えていたのだ。

 

噂はかねてから聞いていた。主人公の女性バーテンダーとなり、訪れる客にカクテルを振舞うらしい。サイバーパンクという世界観に対して少し外したようなドットビジュアル、良質なADVパートと魅力的なキャラクター達が非常に良いのだという。(アクションゲームでは無い模様)

バーは好きだ。そしてADVと魅力的なキャラクターは大好きだ。ぜひやってみたい。

 

肝心の「2077」は延期しやがったがこのゲーム欲は誰にも止めることはできない。僕はヴァルハラへ足を踏み入れた。

 

ゲームが始まるや否やこんなウィンドウが出てくる。

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酒を飲んでプレイしろと。ほぉ。(別にそこまで言ってない)

僕は発泡酒を用意した。ビールの「まがいもの」であることにサイバーパンク要素を重ね合わせたかったのだ。ディストピア飯的なね…

 

階層都市に腐敗した警察、インフレした物価。

今作を開発したスケバンゲームズが自国ベネズエラを題材にしたような重い(サイバーパンク的には常識かもしれない)設定だが、それとは相反してグラフィックは非常にかわいらしいし特徴的だ。

サイバーパンクというはるか未来をゆく世界観に対してドットで打たれた萌絵調の立ち絵と『ファミコン倶楽部』のようなレトロADV風なインターフェイス

ところどころにアニメやゲームのオマージュも見えるため"スケバン"という社名も日本のサブカルチャーに影響されまくったせいということが伺える。

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自宅。ニュースや掲示板を見ることが出来る。

自室からバーへ出勤、もといADVパートへと移ることでヴァルハラというゲームは本領を発揮する。

開店前にバーに置かれたジュークボックスで流す音楽を決めることになるのだが、曲がどれもいい。曲調は様々だがどこかリラックスするような楽曲ばかりで、客との会話内容とピッタリのものが流れ出すとゲームに対するボルテージが上がると共に一本取られたという気分になってしまう。

特に『Every Day is Night』はヴァルハラの雰囲気を聞くだけで堪能することが出来る名曲だ…

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好きなのよ、悪い?

主人公、ジルは週ごとに訪れる会員権や家賃を定期的に支払わなければならない。そのため客が望むカクテルを正しく給仕し、しっかり稼ぐことがゲームのカギとなる。

オーダーは様々だ。「ビール」と指定したものから「ピュアなもの」といった謎かけのようなものにもキチンと対応しなければならない。

今作では、「甘い・酸っぱい」などの味、「ガーリー・クラシック」な雰囲気等の特徴が設定された20種類以上のカクテルを作ることが出来る。オーダーに沿ったカクテルを給仕することで売上の一部とチップ、ボスからのおまけに加えてノーミスボーナスがその日の業務終了時に貰えるというわけだ。(日給かよ…)

 

しかしどんなカクテルを提供するのかは結局プレイヤー次第だ。オーダーと真逆のものを出しても良いし、アルコールを抜いてもいいし、安いものと言われてムカつけば一番高いカクテルを突き出すこともできる。オーダーミスは売上には含まれなくなるが。

それによってちょっとした会話の変化や思わぬルートが開けたりといった箇所もこのゲームの特徴的な部分だ。『一日を変え、一生を変えるカクテルを!』というキャッチコピーも納得できる。

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アルコールに弱い客へ強い酒をお出しすると…??

登場するカクテルはすべて架空のものなのだが、色や名前、グラスの形などどれも個性的に見える。カクテルを好んで飲むような人な元ネタであったり味を想像したりとちょっとワクワクするものばかりなのでは無いだろか。

僕はカクテルに全く詳しくないが。

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時間無制限、作り直しOK!

それにヴァルハラに訪れるキャラクターも非常に個性豊かだ。

犬用玩具会社の社員、新聞社の編集長と一般的なもの。ロリセクサロイド、喋る犬など一癖も二癖もある客が幾人も訪れる。

一対一で話しているだけで十分に楽しいのだが、客同士が話し出すともう手に負えなくなってしまう。話す内容も酒が入るせいか妙に赤裸々だ。

あの常連が来るか、それとも新規のトンデモ客が来るか。ワクワクが止まらない。

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客×客=無限の可能性。

だがトンデモ客のすべてがトンデモということではない。

会話のインパクトで隠れがちだが、登場人物のほとんどがプレイヤーのどこかに引っかかるような悩みや過去を抱えている。どうでもいい同僚から気を持たれている、店が潰れそう、嫌な上司がいる、姉が育児放棄をしているなど。ジルだって例外ではない。

バーテンダーという職業の持つ魔力なのか、初対面であるにも関わらず客はぽつりぽつりと話し出す。会話によって明らかになる過去やトラウマを聞くと彼女らにグッと親近感を抱いてしまうのだ。

 

できることなら親身になって協力したりアドバイスを出したりとしてみたいものだが、その悩みのほとんどは作中で解決することはない。

それどころか突然ゲームの終わりは訪れる。まるで「無料会員はここまで」と無慈悲に締め出すかのように。

そっからが良いところなのに!!(ある箇所を調べることでエピローグも見れるのだが、それだって謎を残したまま終わる。)

 

その上登場する数あるキャラクターの内、物語の本筋に関わる人物は5人程度しかいない。本筋自体も非常に短いものになっており、そのあらすじを語るだけなら200文字程度で済んでしまうだろう。

客との会話であっても重要な部分は2割にも満たない。いくら思わせぶりな会話があれどほとんどのゲーム進行は赤の他人のよもやま話を聴いているだけに過ぎないのだ。

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ネットのノリは十数年前。

というかなんなのだこの赤裸々な話題猥談の量は。

〔イッたふりをしたことがあるか〕とか〔何年致してないか〕とか〔自分のエロ3Dモデルを売る〕とか〔他人のディルドを隠したら替わりに使ったキュウリが調理されて出てきた〕とか。結構ハードな話題が全編通して行われる。

アニメガールがおおっぴらに猥談をしているのを目の前にするのはドキドキするし非常に新鮮に感じる。とはいえそんな話をテキストで見せられて僕はどんな反応すりゃいいんだよ。まったく猥談は最高だぜ!!!

 

というかこの猥談の量と内容はなんとも度し難い。CERO:DなのはともかくとしてSwichでもこのゲームがプレイできてしまうなんて。お子さんのための健全ハードじゃありませんでしたっけアレ。

かと思えば、「自己嫌悪は穴のようなもの。 掘ったところで埋まることは無いのだから自分を責めるのはやめなさい。」

とか認識外からちょっといい話が突然ぶんなぐってくるのだからもうこのゲームの底が見えない。大好きだ。

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「全てのモノにポルノがある。」ルール34もバッチリ完備。

僕はどうしてここまで"よもやま"に魅力を感じているのだろう。

それはこの世界で暮らす彼女らが日々を生きているからに他ならない。彼女らは現代社会に生きる僕たちとは別の世界に生きているはずなのに、なんら僕たちと違わないからだ。

仕事があり悩みがあり、人生があるという確かな存在感。酒の流れで飛び出た話を聞くだけなのに感じる絶妙な親近感と距離感。僕たちはグリッチシティというディストピアで暮らす人々が持つ人生のほんの、ほんの一部をバーテンダー・ジルの目を通して見ているだけにに過ぎないというわけだ。

なんだかバーテンダーがすごくオイシイ職業に思えてきた。願うならヴァルハラにお邪魔してみたいとさえ思う。

 

個性的なキャラクターと話している最中は「なんだコイツ…」と思っているのにゲームを止めてしばらくすると、また会いたい、話したいと考えてしまっている。

その時はじめて気づくのだ。暗いディストピアでも自分に自信を持って伸びやかに振る舞う彼女たちを好きになっていたことに。

おそらくこれは過去へ後ろめたい感情を持つジルがそんな人たちに一歩近づくだけの物語なのだろう。

 

延期したゲームの埋め合わせなんかにプレイすべきではなかったと激しく後悔した。素晴らしい出会いだったのにその質を下げてしまった気がして。

 

このゲームは客のよもやま話を聴いているだけに過ぎない。しかしそのどれもがドラマチックに、愛おしく、ミステリアスで、そしてリアリティを帯びて聴こえてくるのはこの発泡酒のせいなんかじゃない。そう思うのだ。

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そういうこと。

 

 

『ビッケブランカ』という魔法。【推薦】

ビッケブランカ。という単語だけを聞くとどことなく電撃を放つイメージが浮かぶ。バイキングの方かもしれない。

「なにそれ?」や「バンド?」聞かれることがほとんどだが、ビッケブランカはシンガーソングライターなのだ。そして僕は彼にくびったけなのである。

 

彼の大きな特徴はピアノとハイトーンボイス。一般男性にはとても出せないような高音を独学で学んだピアノに乗せて秀逸に鳴らしてくれる。(楽譜も読めないクセに)

彼は地声が高い訳ではない。むしろ低い。しかし、いやだからこそファルセットがしつこくないのだ。キンキンと響くのではなく伸びやかに僕の耳に入ってくる。おかげで聴き疲れせずにいつまでも聴いていられるのである。

 

そしてメロディセンスが抜群に良い。幼少のころから多くの洋楽に触れてきた彼は様々な要素を孕んでいる。例えばこの『CaVa? 』だ。

聞き覚えがない?SpotifyのCMが記憶に新しい人は多いのでは無いだろうか。フックの効いたパートと映像は非常にキャッチーである。(「Spotifyの飛行機の曲」でけっこう通じる。)

曲が流れるのはたった15秒なのにここまでやるか。ピアノで始まった癖に次のパートでは「C'MON!!!」と叫んでいる。なんて気になる曲なんだ。

 

そして彼が世間に大きく認知されたきっかけでもある、ドラマ「獣になれない私達」の挿入歌『まっしろ』。それまでジワジワとアニメやCMとタイアップを取っていたのだがやはり人気ドラマの挿入歌は強い。爆発的にファンを獲得した。

 

主題歌を歌うあいみょんの影に隠れつつもその存在感は十分。挿入歌として使用された『まっしろ』はYoutubeにアップされている彼の楽曲の中で再生数400万越えと頭2つほど抜きん出ている。


ゆったりとしたピアノとヴァイオリンに持ち味であるファルセットが絡みつく。なんていい曲なんだ。

冬にぴったりで大好きだ。アルバム『wizard』でこの曲がかかるまでの一連の流れも非常に良い。

 

wizard。そう、彼は魔法使いなのだ。

ビッケブランカの作る楽曲には一つも類似性が無い。世界でチャートを狙えるトレンド感の強いものから純J-POPまで、どれをとっても新鮮で発見がある。しかもその全てが高クオリティ。

そして恐らく彼のピアノによるものなのだが、音も「今」過ぎない。少し遊びがあるというのか、時代の波に耐えうる強度を感じるのだ。

 

多くのジャンルを作れるミュージシャンは数多く存在する。だがここまでのクオリティをキープすることや、それに伴う期待値を下回らない楽曲を作れる人間はそう多くない。

  ビッケブランカはまだデビューして間もない。それでどうしてここまでクオリティの高い曲をそうポンポンと出せるのだろうか。魔法のようだ。

 

ライブパフォーマンスのクオリティの高さも素晴らしい。

客に歌わせ、サバが舞い、ベースがMCネタを叫ぶ。あぁ、なんてサバのように瑞々しいんだ。これも遊び心に溢れまくった『CaVa?』という楽曲が持つ魔力なのだろうか。

すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。

 

 彼は現在も3か月連続シングルの2枚目『Black Catcher』をリリースしたばかりで着々と知名度を上げている最中である。紅白にだって出場するポテンシャルを持つ彼に注目しない手は無いと言い切ってしまいたい。

 

ともかく、言葉足らずなブログはネットの海に放り投げてとっとと彼の魔法にかかってしまえばいいのだ。

彼は小さなバイキングではなく大いなる魔法使いなのだから。

 

『DEATH STRANDING』におけるソーシャルストランドの真髄とは。【感想】

メタルギアや僕らの太陽シリーズの生みの親、小島監督KONAMIから独立してしばらく経つ。

彼が独立してから4年後に発売されたゲーム。それが『DEATH STRANDING』である。

2015年に独立後、一年経たずに2016年のE3にて突如流れ出したDEATH STRANDINGのトレーラーは世界のゲーム好き、MGSファンを歓喜させた。

僕はこのトレーラーからどれ程の時間を経て世に出るのか想像できずにいた。

小島ゲーはこだわりの塊である。大々的なテーマからしょうもない小ネタまでディティールに富んだゲームばかり。それを独立して一から作るわけだからそれはもう時間がかかるだろう。そう思っていた。

 しかし2019年に発売されるなんて誰が想像できただろうか?僕は21年ぐらいまで待つ心構えをしていたというのに。

 

今では多くのトレーラーやプレイ映像が公開されゲームの概要が掴めてはいるが、当初はあまりにブツ切りなシーンばかりで意味不明な、そして奇妙なものばかり。

後日公開されたトレーラーもそれは奇妙なもので見たものの想像を膨らませ続けた。

赤ん坊と黒い影。『P.T.』のリサを思わせるSEと挙動。さまざまなモノが上へ落ち、悲しげなピアノが流れる。その全てがホラーゲームの様相を呈している。

TGS2019に伴って「アメリカ再建」「北米を繋ぐ」というストーリーの大まかな目的や"ソーシャルストランドシステム"と称するアイテム共有システムなど多くの情報が公開された。とはいえやはり不明な部分は残っている。(ゲームなんて大抵そんなもんだけど)

 

そしてきたる11/8。DL版を購入していた僕は有給をとり事前に仮眠をたっぷりとり、デスストランディングを思う存分プレイした。

 

第一印象

まず、このゲームめちゃくちゃめんどくさい。覚悟はしてたけどマジで驚いた。これがメタルギアやP.T.を作ったかの小島秀夫のゲームなのだろうかと思わざるをえない。

 

最初にたどり着いた町から出発してまず飛び込んでくるのは崖と川。見晴らしがいいかといえば岩壁が視界を塞いでいるし、川もチョロリと流れる程度で実質岩とコケばかりでまったくよろしくない。

実際、デスストランディングの地形はかなり不便に設計されているように感じる。石柱が隆起したような場所やクレバス、急勾配な場所が容赦なく目的地の途中に存在しており歩みを阻んでくる。

人もおらず、銃も持たず。ただ荷物を背負ってそんな場所を歩くだけのゲーム進行と膨大なムービー量はコントローラーを投げる人が出るのもうなずけてしまう。

こんなゲームが未だかつて存在しただろうか。

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グラフィックは圧巻のDECIMAクオリティ。

その上サムはゲームの主人公としては非常に脆い。走り続けるとスタミナ値が残っていようがお構い無しに立ち止まるし、靴が壊れれば足がボロボロになり爪を剥ぐ羽目になる。敵の大技を2回も喰らえば気絶する上、他のオープンワールドゲームではお約束のジャンプ登坂はほぼ不可能だ。

 

なにより移動の快適さが物を言うOWというゲーム形態で(実際はエリア制だけど)ここまで移動にストレスをかけてくるのは前代未聞だろう。

地形を意識しながら体のバランスを取るのはさまざまな部分で細かいヒントが出ているもののかなり疲れる。

さらに積載ギリギリまで荷物を運んでいる状態では軽快に動くことが出来ないため、荷物を奪おうと主人公を襲うミュールの回避はあまりに困難だ。(タックルの存在を知れば戦闘難度はグッと下がるが。)

 

川を渡るにもLR2を押し込まなければすぐに流されてしまうし、少々の移動をすればすぐさまバランスを崩し転びかけるモーションを何度もも見るはめになる。

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ミュール不可避な第一マップ。

こんなに負荷のかかる移動がゲーム全編にわたって行われるのだ。しんどいという騒ぎでは無い。

 

「うおお!これぞヒデオコジマゲームだぜ!」となるプレイヤーならまだしも、ベリーイージーを選ぶようなゲーム初心者にとってはあまりに難解で繊細すぎるのだ。難易度で配送の仕様は変わらないと聞いた時はかなり耳を疑った。これをゲーム初心者にやらせるなんて。

恐れながら僕が点数を付けるなら10点中3あたり。この時点ではそんな印象だった。

 

「そろそろ退屈してた頃なんだろう?」

歯応えがありつつも平坦な配送業務にややグロッキーだった僕の前にヤツは突然現れた。

大型BT(ボス)の登場だ。

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シューター操作で敵を倒すのはやはり楽しい。グレネードを投げ攻撃を避ける。原初に立ち返ったというか実家に帰った感覚というか。安心するのだ。

 

しかしチュートリアルが終わったからなんだと言うんだ。つまるところ軟弱な主人公で挑む過酷な配送ゲーなのだろう?

 

レイクノットとソーシャルストランド

しかし2つ目のマップに辿り着くとこのゲームに対する印象はガラリと変わることになる。

 

シェルターに暮らす人らに荷物を届けていく内に銃、パワースケルトン、バイクにトラックと次々と揃う装備装備装備。そうそうこれだよ。これをTGSでみてやりたいと思ったんだ。

銃を撃ち、ミュールを轢き、荷物をぶんどりスムーズに拠点へ帰る。

あれっ、楽しい。

本当に冗長で退屈なチュートリアルはあれで終わりだったのだ。

 

 

そしてチュートリアル終了と同時にこのゲーム最大の要素が顔を出すことになる。

 

シェルターのオンラインボックスに入った他ユーザーの荷物を届けようとトラックに詰め込む。

その配送の途中には僕や誰かの作った橋がかかっており、そこには大量のいいねがついているのが気持ちいい。みんなもここに橋ほしかったよな、俺が建てておいたぜ。

 

国道に素材を入れれば快適なトリップロードが完成する。世界中のデスストユーザーによってこの世界は完成されていくのだ。ミュールの縄張りの手前にはポストが置かれ、岩壁にはロープが垂れているしまだ協力が仰げそうにないシェルターの近くにはセーフハウスが建ってある。

あーそうそう。俺それ欲しかったんだよ、助かるなぁ。

 

これだ。

 

この「ソーシャルストランドシステム」と呼ばれる建造物共有システムがデスストランディングの魅力の半分以上を占めていると言っても過言ではないだろう。

度々ソウルシリーズの血文字システムがあがるように間接的なオンライン要素は今までにもいくつかあったのは事実である。しかしここまで間接的なつながりが強いゲームはデスストランディングの他には無い。

配送の楽しさもストーリーの秀逸さもこのシステム無しでは語れない。このゲームはオンラインに繋いで遊ぶべきだと断言できる。

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がらんどうなフィールドにポツンと置いてある大規模なネイビーの施設。それがあるだけでどれだけ嬉しく、安心するだろう。

そこに誰かが確実にいたのだ。

 

カイラル通信量

カイラル通信量を意識したことはあるだろうか。

一言で言えば、シェルターの親密度が上がる毎に増える「建造物のコスト上限」のようなものなのだが、これが上記の内容を必要たらしめる要素となっている。

この世界では橋や発電機をを無尽蔵に置けるわけではなく、建造しまくっているとゆくゆくはなにも建造できなってしまう。

  

実際に上限に達した人は少ないかもしれない。だがそれは他人の建造物に助けられてきたことの裏返しである。

序盤では満足な通信量もない上に有用な建造物も少ない。当然セーフハウスも時雨シェルターも持っていない。しかし世界は過酷。

いずれは(ここにアレがあれば…)と思う瞬間がやってくる。

つまり他ユーザーに頼らざるを得ないのである。

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国道も自分一人では到底完成し切らないだろう。

繋がりに煩わしさを感じたり自分の力でクリアしようとするプレイヤーにとってはかなり足を引っ張る要素になってはいる。でも一人の力でクリアするとかそういうゲームじゃねぇからこれ!!諦めろ!!

もう一度言うが他人の建造物が必要になる瞬間がいずれは必ず来るのである。きっと誰かに泣いて感謝する時がやってくるだろう。

 

今までに無いジャンル

 今作のゲームプレイは上記の通りあまりに独特である。

基本的には歩いて歩いて、ようやく目的地にたどり着く配送ゲーム。シューターの要素こそあれどそれは全体の2割程度でしかない。

 

『DEATH STRANDING』はウォーキングシュミレーターと揶揄されたゲームだ。しかしそういったゲームが世の中にどれほど存在するのだろう。

思い出してほしい。初めてステルスゲームをプレイした時の緊張感やホラーゲームをプレイした時の心臓の高鳴りを。

気になったゲームタイトルをプレイした時のワクワクを感じることはあるだろう。しかしジャンルを初めてプレイした時の心情をまた思い出せるような人は少ないのではないだろうか。

 

今まで体験したことがないゲームをプレイした時プレイヤーは何を思うだう。

試行錯誤の末に目的地や正解にたどり着いた時の感情や快感。シューターやアクションから 2歩3歩も離れた「ウォーキングシュミレーター」という未知のジャンルを開拓することがどれほど気持ちいいか。

それは僕が初めて格ゲーで勝利した時や『Crypt of the NecroDancer』をクリアした時のそれと同じだろう。

 

今までの自分の感覚に無いゲームをプレイするのはきっと楽しい。

従来の殴り合いや撃ち合いから大きく逸脱した、野心的とまで言えるほどの小島監督の今作における姿勢がプレイヤーや、昨今の「失敗できないゲーム業界」において高く評価されているのではないだろうか?

 

 

魅力的なキャラクターとストーリー。それに噛み合ったシステムもさることながら、そういったゲーマーや、役者の影響で初めてコントローラーを取った人に語り掛けるような。「あの時」を思い起こさせてくれるような。僕はそんなこのゲームを強く抱きしめたくなる。

 

間違いなくゲーム史をに名を残す一本になる。僕はエンディングを見てそれを確信したのだ。

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俺は歩いたよ。

『ケイゾク』というカルトドラマ【推薦】

ネットが普及した現代において未解決事件というワードは非常に陳腐なものになった。グリコ森永しかり、黒猫しかり。多くの事件がページにまとめられリンクが拡散されている。

しかし20年も時を遡ればネットの普及率はガックリと肩を落としており、現在におけるSNSYoutubeなんて文化は夢のまた夢。それゆえに未解決事件なんて言葉に胸をときめかせた人だって多かったのではないだろうか。

 

未解決事件というのは現在に至るまで発生している。捜査をしても犯人の痕跡を掴むことが出来ずうんともすんとも言わなくなってしまい、今のように怖い話、都市伝説となって語り継がれるようなものも少なくない。

では、捜査から手放されてしまった未解決事件はどうなってしまうのだろうか?誰か代わりに担当してくれる?遺族の思いはこれ以上汲めない?捜査資料はどこへ行く?

 

迷宮入りとなった事件の捜査資料には“継続”の判子が押され、「警視庁捜査一課二係」。地下にあるこの部署の書架に保存されるのだ。(実際に二係という部署は存在しない)

そんな二係を舞台にしたドラマ、それが1999年にオンエアし今日まで根強いファンが存在する『ケイゾク』である。

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主人公の柴田(右)と真山(左)

 二係は未解決事件が回されてくるいわゆる窓際部署だ。資料に“鋭意継続捜査中“という意の判子さえ押してあるものの一課で捜査した事件をたった数人しかいない小さな部署で解決できるはずがなく、実際これといった活動はしていない。

そんな中に研修として二係にやってくる柴田純がこの作品の主人公。太陽には吠えない。

東大を首席で卒業した彼女は非常に頭がいい。世間知らずで浮世離れした行動や言動が目立つものの、頭脳明晰としか形容する他ない洞察力と推理力で数々の未解決事件を解決に導いて行くのだ。エクセレント。

 

このドラマは非常に不気味だ。1秒につき4カットも挿入される映像が延々と続く特徴的なOP。そしてサイケデリックな演出と不安を煽るカット。例えば1話の笑う刑事と現場写真のシーンを見たとき僕は恐怖した。「とんでもないドラマなんじゃないか」と思わせられたし、同時に一気に引き込まれてしまった。

各エピソード毎の結末はどれも後味の悪いモノだし、全体を通して暗いイメージが立ち込めている。(誰もいない部屋に人が現れるエピソードとか特に後味悪い。) 

 

ファンには失礼な話だが、OP曲『クロニック・ラヴ』が故・岡田有希子の『WONDER TRIP LOVER』をアレンジした楽曲という事実も不気味さを加速させる一因となっているだろう。

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奇妙で無作為に見える写真が延々と流れるOP

 とはいえ、このドラマはただただ不気味な事件を扱う陰鬱な刑事モノではない。ケイゾク最大の魅力は柴田や二係のメンバー間におけるクスリと笑える掛け合いにある。柴田は同じく二係の刑事、真山と行動を共にするのだが、この二人がなかなかの曲者なのだ。

柴田は警察官とは思えない恰好で現場で人型のテープと同じ格好で寝そべる。風呂に入らず頭が臭いと思いきや服を着たままシャワーを浴び、激マズハーブティーをこさえ、運命の旦那様を心待ちにしている。

シニカルで柴田をバカにした態度をとり続ける真山。面倒くさがりというよりはニヒルな印象を受ける男だが一たびスイッチが入れば怒りに身を任せ犯人を糾弾し、蹴りつける。警察官というベールを脱げば無機質な部屋からある男を監視し、支離滅裂な行動が目立つ。

あまりにアニメ的。やっぱりこういうアニメチックな登場人物が人気を博している様を見ると「涼しい顔してみんなもアニメマンガが大好きなんじゃないか」と思ってしまう。そんなアニメチックなキャラクターと不気味な雰囲気とのコントラストによって彼女達は一際輝いて見えるのだ。ブリリアント。

 

正直、刑事ドラマとしての出来は微妙なところではある。トリックにはかなり無理があるし衝動的な動機にしては手が混み過ぎていたり運に頼り過ぎている場合もある。

重い雰囲気、突飛な演出のおかげかキャッチ―さも薄く、実際のところ幅広く人気かと問われれば微妙なスペックである。

 

映画の予告編もとても面白そうには見えない。やっぱり不気味に全振りだよ。

 

しかしどういうわけかやっぱりこのドラマは面白い。 このドラマが放送されてから20年近い年月が経とうとしているが、未だにこれに近い雰囲気のドラマは存在しない。

数年前、TSUTAYAケイゾクを借りに行った時、ポップにはこんな一節が書いてあった。「現在に至るまでカルト的人気を誇るミステリードラマ。」

このポップを見たとき笑ってしまった。間違いない。ケイゾクはどうしようもなくカルトドラマなのである。